慰謝料について

 読者の皆さんは「慰謝料」という言葉を聞かれたことがあると思います。交通事故で父親を失った場合を例にあげれば、治療費や通院交通費など現実に発生した損害や、被害者が将来得たであろう収入相当分(逸失利益といいます)などを請求できることは当然ですが、肉親を失ったという精神的苦痛についても損害賠償を請求できます。こうした精神的苦痛に対する損害賠償が「慰謝料」とよばれるものなのです。

 「慰謝料を請求したいが、どれ位の金額を請求できるのでしょうか?」という質問はよく受けます。慰謝料を請求aできることは良く知られいますが、どれ位の金額を請求できるのか分かりにくいことは否定できません。今回は、これまでに裁判所で出された判決の例を紹介することにします。

 交通事故の死亡事故など、肉親を失った事例は、慰謝料としては最も大きな金額が認められています。裁判所で認められる金額の目安としては、一家の支柱(子供が未成年の場合の父親など)の場合でおおよそ二五〇〇万円から三〇〇〇万円程度であり、一家の支柱に準じる場合(子供が未成年の場合の母親など)は二二〇〇万円から二五〇〇万円程度のようです。年金生活者など、特に扶養する対象がいない場合は、これよりも更に低い金額となることが多いようです。先に説明しました通り、交通事故の場合、将来得られた筈の逸失利益や治療費などが別に加算されますので、損害賠償の総額はこれだけではありませんが、肉親を失ったという精神的苦痛に対する慰謝料額はこの程度の認容例が多いようです。加害者の過失が重大な場合など、特別の事情があれば、増額されることもあります。

 交通事故や加害者の暴力で怪我をした場合は、治療期間や怪我の程度に応じた慰謝料が認められます。被害者が植物状態になった場合には死亡事故に近い金額になりますが、一か月の入院程度であれば、概ね数十万円程度の認容額です。腕の切断など、後遺障害が残った場合も、程度に応じて慰謝料額が認められています。

 夫の浮気が原因で離婚になった場合にも、夫や不貞の相手方に対して慰謝料を請求できる場合があります。しかし、肉親を失った場合よりは、裁判所で認められる慰謝料の金額は少なくなります。個別事情や婚姻期間にもよりますが、概ね二〇〇万円から五〇〇万円程度の事例が多いようです。離婚の場合も、離婚に伴う共有財産の清算としての財産分与や養育費は別に算定されますので、慰謝料が全てではありませんが、こと精神的苦痛に対する評価は案外低い金額なのが実情といえます。 慰謝料は、基本的には相手方に非があった場合に初めて認められるものですので、相手方に非難されるような事情が無い場合には認められないこともありますし、長年に渡る暴力行為・不貞などひどい事情があれば認められる金額が多くなるなど、個別事情によりかなり幅があります。

 インターネット上に事実無根の悪口を掲載されるなど、名誉を傷つけられた場合にも精神的苦痛を受けますので、これに対して慰謝料請求が認められます。ただ、これまで裁判所で認められた金額は、概ね数十万円程度の例がほとんどのようで、数百万円を認められる例はなかなか無いようです。

 これら以外にも、セクハラによる場合、正当な理由もなく婚約を破棄した場合など、精神的な苦痛を受けた場合には慰謝料の請求が認められています。全てをご紹介するスペースはありませんが、婚約の不当破棄の事例では概ね離婚よりも低めの金額となることが多いようですし、セクハラに対する慰謝料もその程度の金額を認める例が多いようです。

 このように判決例を概観しますと、個別事情が影響するものではありますが、典型的な事例で比べますと、ある程度は一定の基準があるように思われます。一般的な感覚としては、思ったよりも少ないと感じられることが多いのではないでしょうか。

 ただ、最近は慰謝料金額についても、これまでの事例に比べて随分大きな金額が認められる事例も出てきました。セクハラなどについては、これまで比較的低い金額の事例が多かったのですが、最近は離婚の慰謝料に匹敵する、もしくはこれを超える金額を認める例も出てきています。これまで比較的評価の低かった精神的苦痛に対する評価が、今後時代とともに変わっていく可能性は否定できません。

 なお、慰謝料は、精神的苦痛を慰謝する(慰める)ものと言われており、裁判の事例においても、個別的な事情によってかなり違ってきます。その意味では、今回ご紹介する事例も、あくまでも一般的な事例を前提としており、個別の事情によって相当大幅に増減されます。ですから、個別的な事件における慰謝料の金額については、直接弁護士に尋ね下さい。