交通事故と三つの責任

ーその一ー

社長 

大変です、長男が交通事故で相手に怪我をさせてしまいました。

弁護士

まぁ落ち着いて下さい。まず、どんな事故なんですか?

社長 

長男が車でスキーに行ったのですが、帰り道で、一時停止の標識を見落として交差点にそのまま突っ込んでしまい、相手の車の側面にぶつかったらしいのです。

弁護士

ご長男の怪我は?

社長  長男は、軽い打撲で二、三日入院する程度のようです。被害者の怪我の程度はまだ聞いてません。それで、長男は、これからどんな責任を負うのでしょうか?

1、民事上の責任

弁護士 まず、被害者に発生した損害を賠償する責任があります。いわゆる民事上の責任です。被害者が怪我をしたとすれば、その治療費・休業損害・慰謝料などを支払うことになります。被害者に後遺障害が残れば、その分も賠償する必要があります。死亡事故になると、葬儀費や将来に向けた逸失利益なども賠償することになります。相手の車の修理代なども賠償する必要がありますね。 ところで、賠償責任保険には加入してますか?

社長 

人身事故は無制限で入っています。対物保険は五〇〇万円までしか入っていません。

弁護士 

賠償責任保険は、交通事故で損害賠償責任を負ったときに、保険会社が保険契約で決められた金額までは、加害者に代わって損害賠償を支払うというものです。対人保険の金額が無制限であれば、被害者の治療費など人身事故に関する部分は保険で支払いができますね。

社長 

対物保険は金額が少ないのですが…。

弁護士  保険金額を越えた損害賠償責任を負ったときは、越えた金額については、自分で支払う責任があります。対物保険の上限が五〇〇万円ですと、相手の車種によっては、自腹を切る必要が出てくることもありますね。

2、刑事上の責任

社長 

交通事故でも加害者が刑務所に入ることもあるのですか?

弁護士 

ありますよ。いわゆる刑事責任です。わざと起こしたものでなくても、自分の過失で相手に怪我をさせた場合は、業務上過失傷害罪という罪になります。一時停止違反であれば、道路交通法違反の罪も加わります。 責任の程度ですが、加害者の落ち度が少ない場合なら罰金刑ですむこともありますが、飲酒運転での死亡事故や轢き逃げのように悪質なものであれば、懲役刑に処せられ、交通刑務所に入ることも珍しくありません。

社長 

今回長男は逮捕されていませんが、それでも刑事裁判になりますか?

弁護士  逃亡や証拠湮滅のおそれがあると判断された場合は、その場で逮捕されることもあります。逮捕されていなくても、後日刑事裁判を受ける例もあります。具体的状況で違ってきますから、早速ご本人から事情を伺うことにしましょう。

3、行政上の責任

社長 

この他に、長男には何か責任が発生するのでしょうか?

弁護士 

一時停止違反で事故をおこしたのですから、運転免許の停止や取消といった行政上の処分を受けるでしょうね。第三の責任、いわゆる行政上の責任です。

社長  取り敢えず私は何をしたら良いのですか?

弁護士  加害者側がすることは、まず保険会社に連絡することと、警察に事故の届け出をすることです。それから、当たり前のことですが、直ぐに被害者にお見舞いに行って下さいね。