Aさんは、とある会社で営業部長に昇進しました。そんなAさんに、ある日、 Bを名
乗る紳士風の人物から、一本の電話がかかってきました。
B Aさんですか。このたびは営業部長昇進おめでとうございます。
A ・・はい、ありがとうございます。ところでどちら様でしょうか。
B 私は、紳士録名鑑のBと申します。紳士録は、一部上場企業の課長さん、二部
上場企業の部長さん以上の役職の方はほぼ全員載せて頂いております。もち
ろん掲載は無料ですので、Aさんも紳士録に掲載したらどうですか。
A (しばし考え、無料だからいいかと思い)皆さん載せるものなのですね。じゃあ、
お願いします。
一か月後、Aさんのもとに、Aさんも掲載された紳士録とその購入代金五万円の請求書が、一方的に送られてきました。Aさんは、紳士録の購入など申し込んだことはありませんでしたが、五万円くらいであればいいかとの安易な考えから、振込手続きをとりました。
それから時は流れ、五年後、Aさんのもとに、Cという人物から電話がかかってきました。
C Aさんはいますか。
A 私ですが。
C 紳士録名鑑のCだが、あなた、どうなっているの。
A 何のことでしょうか。
C 紳士録のことだよ。あれからあなた放ったままでしょう。
A (五年前のことを思い出し)ああ、そういえば以前、無料と聞いて掲載を了承したことはあります。ただ、放っておくもなにも、あれからなにも連絡がなかったものですから。
C 何をいっているんだ。紳士録は、毎年更新するのが常識だろう。ともかく今度改訂版を出すから、このまま載せるのか、抹消するのか決めてくれ。更新料は五〇万円、抹消料は二〇万円だ。どっちにするの。
A ・・じゃあ、抹消でお願いします。
C ああ、そうか。それじゃ二〇万円を今からいう口座に振り込むように。わかったな。
Aさんは、何のことか分からないまま、これで済めばいいかと考えてこれを承諾し、二〇万円を振り込んでしまいました。すると、程なくDなる人物から電話がかかってきました。
D Aさんはいるかね。
A 私ですが。
D 紳士録総本部のDだが、あなた、紳士録登録を抹消するらしいな。
A はい。そういうことで、Cさんには連絡してお金も振り込みましたけど。
D なにいってるんだ。Cのところは知らんが、うちの出してる紳士録はもう既に印刷に入っているんだ。これを取り消すには、一〇〇万円必要だ。今すぐ振り込まないなら、おたくの会社で話をさせてもらう。誠意がみられなければ、おたくの会社は大変なことになるぞ。分かってるな。・・・
仕方なくAさんは一〇〇万円を振り込みましたが、その後もAさんのもとには他の紳士録業者を名乗る人物から、紳士録の登録抹消料の名目で恐喝めいた電話が毎日のようにかかってきています。Aさんは一人でこの問題を抱え込み、ノイローゼ気味の日々を過ごしています。
*このように、紳士録への掲載を勧誘し、その後様々な名目で高額・不当な金員を請求する商法を紳士録商法といいます。この紳士録商法の被害者は、会社の管理職や社会的地位のある人が多いことが特徴です。
先の例についてみますと、そもそも当初のAさんと紳士録名鑑のBなる人物との間で成立した契約は、あくまで「紳士録名鑑なる団体が今度発行する紳士録に無料でAを掲載すること」に尽きるものです。したがって、その後の紳士録の購入や更新料、抹消料について、Bらから何ら説明を受けていなかったAさんには、これを支払うべき義務は全く認められなかったのです。
では、Aさんはどのように対処すべきだったのでしょうか。
まず、Aさんは、当初の交渉の時に、Bらの所属する団体の正式名称、住所及び担当者のフルネーム等を確認したうえで、自分にどのような義務が生じるかを明確にしておくべきでした。
次に、Aさんは、他人に相談することもなくその場その場で即答、約束しているようですが、このような対応はまさに相手の思うつぼであり、これを避けるべきでした。
さらにAさんは、その場凌ぎで紳士録の代金や抹消料名目の金員を振り込んでいますが、これに味をしめた相手方は、さらに要求をエスカレートさせたと考えられます。したがってAさんは、理由のない金員は一切支払うべきではありませんでした。結局、 Aさんとしては、毅然とした態度で相手の不当な要求を拒む勇気をもつことが必要だったのです。
ただ、Aさんがこの問題に対して一人で対応するには、限界があります。このような類の話を持ちかけられ、対処法に困ったときは、早めに警察、弁護士などに相談することが大切です。なお、紳士録商法の背後には、暴力団が控えていることもありますから、(財)暴力追放愛知県民会議(電話052ー 953ー3000 )という機関に相談することもお勧めします。