破産の相談その2


―電話にてー

社長

明日の金曜日の夕方お会いしたいんですが。

弁護士

明日の夕方には先約が入っているんだけど。

社長

どうしても明日お会いしたいんですが。実は会社が危ないんです。月曜日に不渡りを出すかもしれない瀬戸際なんです。

弁護士

わかりました。先約はキャンセルします。明日午後5時に来てください。


ーA弁護士事務所にてー


弁護士

どうしたんですか。

社長

取引先が一年前に不渡りを出して、運転資金と見込んでいた二〇〇〇万円が入ってこなくなったんです。うちも一杯一杯のところですから、銀行は融資をしてくれません。手形の決済資金を調達するために、商工ローンから金利が高いのを覚悟の上でお金を借りたのです。半年後には大きな仕事が入ってくる予定でしたので、資金ショートを避けるために借りたのです。

 半年後にその仕事を受注したんですが、見積もりでかなりたたかれまして、収支トントンで受注することになりました。 あてにしていた仕事も利益がほとんどなく、商工ローンの金利の支払いに困るようになったのです。そのうち、『ファックスで簡単融資』という案内が届いたので、ついつい手を出してしまったんです。そしたらべらぼうに高い金利で、しかも、手形を振り出すシステムになっているものですから、不渡りを回避するために、また借りるという具合で、借金がみるみるうちに増えていったんです。

弁護士

ファックス金融まで手を出したら危険だね。皆さん目先の資金繰りしか見えてないんだよねぇ。ところで、負債はどのくらいあるんですか。

社長

今は、銀行などの金融機関に五〇〇〇万円、商工ローンに六〇〇万円、ファックス金融に三〇〇〇万円ほど借入金があります。月曜日に二〇〇万円の手形の満期が来るのですが、決済資金がありません。

弁護士

会社の仕事の方はどうなんですか。

社長

お陰様で、仕事はあります。ただ、仕入れ資金が底をついているので、仕事をしたくても材料を入手することが難しくなってきています。

弁護士

うーん。もう少し早く相談に来てもらえば打つ手もあったんだが。昨年の四月に民事再生法というのができて、会社に体力があるうちに再生を図ることができるようになったんです。一年前に二〇〇〇万円の焦げ付きを食らった時点でなら、この民事再生法を利用することが可能だったかもしれません。今の段階では、借入金が多くなりすぎているし、再生の可能性も難しくなっているので、破産申立を考えるほかないでしょう。

社長 無言(がっくり)。

破産申立の費用

弁護士

破産申立の場合には費用がかかります。会社が破産申立をする場合には、通常、破産管財事件となります。すなわち裁判所から選任された破産管財人がプラス財産とマイナス財産を調査して、配当すべき財産がある場合には債権者の債権額に比例して配分することになります。この破産管財人の報酬等をあらかじめ確保するために、破産申立をする場合、予納金を準備しなければなりません。この予納金は、負債額、債権者数によって決まります。名古屋地裁の場合、法人が破産をする場合には予納金は最低六〇万円です。負債額一億円、債権者数二〇人程度なら、予納金は一〇〇万円程度必要です。その他、弁護士の費用も必要です。弁護士費用は通常予納金と同額程度とされています。

社長

実は私も連帯保証しているんですが。

弁護士

会社が破産する場合は、会社の債務について社長さんが個人的に連帯保証人になっていることが大多数ですから、社長さん個人の破産も検討しなければなりません。その際、費用も別段必要です。前の負債一億円の例ですと、社長さん個人の予納金は六〇万円程度、弁護士費用も六〇万円程度必要になります。ですから、会社も社長さんも破産する場合には三二〇万円ほど必要となります。

社長

えっ、そんなに必要なんですか。そこまでして破産しなきゃいけませんか。

弁護士

企業の責任でしょう。破産することで債権者への公平な弁済もできるし、取引先も会計処理しやすくなります。従業員への給料の支払いも一定限度で保護されます。

何より、一生逃げ回るつもりですか。一度清算して立ち直らないと困るでしょう。ただ、破産すると決めても、このことを公表するのは避けた方がよいでしょう。破産だといえば、債権者が社長さんの会社に押し寄せてきて、大混乱となります。中には、材料、資材を自力で持ち帰る債権者もいます。この土・日で破産申し立ての準備をして電光石火で破産申立をした方がよいでしょう。

社長

それにつけても先立つお金の準備をしなければ。売掛金の回収ができれば何とか費用の目処が立つのですが。

弁護士

話が分かってもらえそうな取引先に正直に話して売掛金を支払ってもらうよう協力要請するとか、会社でかけてある生命保険を解約するというのも一つの方法です。

社長 家に帰って家内と相談します。

注:具体的に要する費用は個々の事件によって異なります。依頼される弁護士とご相談下さい。


予納金のめやす

負債総額

1億円
未満

1億円以上

3億円以上

10億円
以上

30億円
以上

50億円以上

100億円以上

300億円以上

500億円以上

1000億円以上

法人

60万円

80万円

100
万円

150
万円

300
万円

500
万円

800
万円

1000
万円

1200
万円

1500万円以上

個人

40万円

60万円

70万円


上記には弁護士費用は含まれておりません