会報「SOPHIA」 平成28年10月号より

共謀罪法案に反対するシンポジウム開催される



秘密保護法対策本部 委員
四 橋 和 久

  1.  シンポジウムは大盛況!
     政府が、これまで3回に亘って廃案となった共謀罪法案を、名称等変更のうえ再び国会に提出するとの報道がなされた。当対策本部は、共謀罪反対の姿勢を強め、「テロ等組織犯罪準備罪?〜気を付けよう、そのひと言が犯罪に〜」というテーマで、10月1日、シンポジウムを開催した。
     市民の関心は高く、100人以上の参加者が、弁護士会館5階ホールを満席とした。
  2.  渕野貴生教授の講演
     立命館大学大学院の刑事法教授である渕野貴生教授に、「共謀罪と刑事裁判」という題名でご講演いただいた。
     渕野教授は、テロ等組織犯罪準備罪の適用が厳格になったように見えるが、実際には、最も基本とされる捜査の適用対象が極めて曖昧であると強調された。産地を偽装して牛肉を販売するという例を挙げ、産地偽装肉を販売する共謀をしていない食肉店であっても、競合他社からのリークにより、同店が組織的犯罪集団に仕立て上げられ、捜査の対象になると説明された。捜査対象となったことで、同店は致命的なダメージを被ることになる。このように、捜査機関による集団への恣意的な介入が可能なことが、興味深く語られた。
     次に、改正刑事訴訟法について説明され、手続が簡易化された通信傍受を端緒に、共謀罪の捜査対象となった第三者が、司法取引を契機に共謀したとの虚偽の供述をする危険性、証人保護を理由に共謀相手すら知らされない異常な事態が指摘された。
  3.  原田宏二さんの講演
     北海道警察警視長であった原田宏二さんに、「共謀罪 警察がなんでもできる時代がやってきた」という題名でご講演いただいた。
     都道府県知事の下にあるべき警察を、実際には警察庁が「人・物・金」をもって完全に管理している事実が紹介され、この構造こそが、共謀罪制定による警察権限強化路線を作り上げてきたことが説明された。
     また、注目すべきことは、従来、警察学校で教えてきた「警察消極の原則」、「警察公共の原則」がテキストから削除され、警察官の意識から「行政警察」と「司法警察」の区別が失われつつあることである。
     実行行為のない段階の捜査を可能とする共謀罪の制定もこのような流れと合致し、将来、国民の人権を無視した捜査が続発する危険性があることを警告された。
  4.  パネルディスカッション
     パネルディスカッションにおいて、原田さんは、暴対法における暴力団の定義さえ非常に曖昧で、組織犯罪準備罪での組織犯罪集団の規定も何ら意味がないと説明し、渕野教授も、同規定は、犯罪を継続していることを要求していないので、突然、組織犯罪集団に認定される可能性が想定され、限定的機能を有しないと説明された。
     原田さんは、グレーゾーン捜査の例として「捜査事項照会書」を取り上げ、「情報収集」と「犯罪の捜査」との垣根が曖昧になっていると指摘された。渕野教授は、曖昧な捜査によって生じる人権侵害に対して、弁護士は、裁判所に厳格な判断を求めていくべきであると強調され、この点は、刑事弁護に関わる弁護士として、心すべきとの思いを強くした。