会報「SOPHIA」 平成28年9月号より

日本弁護士連合会第59回人権擁護大会プレシンポジウム
「主権者教育を考える〜実践したらこうなった〜」開催される



法教育委員会 委員
森 川 真 樹

  1.  はじめに
     9月3日(土)、アイリス愛知において、日弁連・中弁連共催、愛知県教育委員会・名古屋市教育委員会後援の下、標記シンポジウムが開催されました。
     本シンポジウムでは、主権者に望まれる素養についての理解を深め、あるべき主権者教育について考えることをねらいとして、基調講演、実践授業報告及びパネルディスカッションが行われました。県内の小中学校・高等学校の教員だけでなく、県外の教育関係者も多数参加され、近時注目されている主権者教育に対する関心の高さが窺われました。
  2.  基調講演
     第1部では、名古屋大学大学院法学研究科教授の藤本亮氏が、「司法教育、法教育、そして主権者教育」と題する基調講演をされました。1990年代以降の「法教育」の潮流を概説された上で、法教育とシティズンシップ(市民性)教育とは教育内容について重複しつつ独自の展開をしていること、18歳選挙権の導入を契機として主権者教育が注目されているが、これに対しての動きも法教育系の対応とシティズンシップ教育系の対応とが連動しつつも比較的独立して進行していることの指摘がなされました。
  3.  実践授業報告
     第2部では、名古屋市立丸の内中学校教諭の西脇佑氏が、授業風景を撮影したビデオの上映を交えて実践授業の報告をされました。生徒たちが、学区内の放置自転車問題について、フィールドワーク(地域調査)を行った上で解決策を提案した後、グループごとにサポーターの弁護士とも話し合いながら、よりよい解決策を考える活動の様子が映し出されました。@適切な手段か、A誰にとっても同じ内容か、B決まりを作る過程に皆参加しているか、C立場を変えても受け入れられるか、D時間やお金が無駄なく使われているか、という5つの視点を踏まえ、修正案を話し合う生徒たちの姿は真剣そのもの。「実践授業は今後の授業に大いに参考になった」等、参加した多くの教員から好評を得ていました。
  4.  パネルディスカッション
     第3部では、前出の藤本氏、西脇氏に加え、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官の樋口雅夫氏、名古屋市立守山西中学校教諭の寺田太郎氏をパネリストに迎え、矢崎信也会員のコーディネートの下、パネルディスカッションが繰り広げられました。
     実践授業について、藤本氏は、権威的なものに引っ張られないように配慮されていた点を評価され、樋口氏は、よりよいものにしていくために知恵を出し合うところが大事、主体的・対話的で深い学びにつながるとの感想を述べられました。また、寺田氏の「法教育=主権者教育=社会科教育」との意見には、参加者の多くが頷いていました。政治的中立性については、授業で取り扱うねらいや目的を明確にして生徒に示すことで政治的中立性にも配慮する、その意味で公正さが求められる、また、教員が直接意見表明するのでなく弁護士等を活用して見解を提示することも選択肢の一つ、とのことでした。
  5.  結語
     本シンポジウムは、戸惑いや不安が広がる教育現場に向けて、主権者教育の一定の方向性を指し示す大変有意義な機会となりました。