会報「SOPHIA」 平成28年2月号より


平成27年度人権賞受賞者
NPO「まなびや@KYUBAN」代表 川口 祐有子 氏
〜子ども達と多文化共生への熱い思い〜



人権擁護委員会 人権賞小委員会 委員
安  達   徹

  1. はじめに

    本年度の当会人権賞は、放課後の子ども達の居場所作りや地域における多文化共生の推進を目的とするNPO「まなびや@KYUBAN」(以下、「まなびや」)代表の川口祐有子氏(以下、「川口氏」)が受賞され、2月9日に授賞式が行われました。

    そこで、川口氏の調査担当者として、その活動や人柄等についてご紹介致します。


  2. 活動を始めたきっかけ

    川口氏は、大学時代、ベトナムで日本語教師ボランティアに参加したのを契機に国際交流に関心を持ち、帰国後、豊田市の保見団地にてブラジル人の家庭を訪問し日本語を教える「巡業日本語教室」や子ども達を対象とした「宿題サポート活動」等のボランティア活動に従事し、在日ブラジル人の支援活動に注力しました。

    大学卒業後は、豊田市内の在日ブラジル人学校で働きながら、知立市の公立児童センターで児童厚生員補助兼ポルトガル語通訳として勤務し、その経験から、外国籍児童(特に不就学児童)に対する学習支援の必要性を痛感しました。

    その後、平成17年に名古屋市に転居し、市内最大の外国人集住地と言われている名古屋市港区九番町の九番団地に関心を持ち、教員免許の取得を目指して愛知教育大学に再入学する一方で、名古屋市の学習支援ボランティアとして、同団地近くの名古屋市立東海小学校で語学が壁となっている外国籍児童の宿題を見る等の活動を行っていました。

    平成20年秋のリーマンショック後、同小学校では親が失業し家庭が荒れ始めた所が多く、同団地でも多くの子どもや大人が家に居場所を失くし、路頭に溢れているような状況でした。そんな中、同小学校で、日系ブラジル人の2年生児童が「誰も僕を必要としていない。死んだっていいんだ」と泣きながら校舎2階から飛び降りようとし、偶然見つけた川口氏が必死に抱きしめて止めさせるという事件が起きたことから、子ども達を守る場所を作らなければならないと決意し、同団地にて、放課後の子ども達の居場所を作る活動を始めました。

    そして、平成20年10月、NPO「まなびや@KYUBAN」を立ち上げ、特別支援学校の職員として稼働しながら、勤務終了後や休日に「放課後の子ども達の居場所づくり」や「外国籍住民の支援」等の活動を行うようになりました。


  3. 活動内容

    (1) 放課後の子ども達の居場所作り

    毎週月・水・金曜日(夏休み期間はほぼ毎日)、同団地の集会所の一室を同団地や周辺在住の子ども達に開放し、放課後の居場所を提供する活動をしており、そこでは、「宿題をやる」、「宿題が終わったら遊ぶ」などの4つの簡単なルールがあるだけで、日々の活動は原則子ども達の自主性に委ねられ、川口氏はアドバイザーないしオーガナイザーの立場にあります。特に外国籍児童は言葉の壁などで学習に困難を抱え、学校からの宿題を持ち込むことが多く、学習支援の性格を有しますが、勉強を教えるのも、原則として国籍、年齢を超えた子ども達です。

    当初2週間程は外国籍児童のみでしたが、友達の縁や口コミで日本人児童も訪れ始め、現在は半数が日本人児童で、ある種自然発生的に「多文化共生」が日々実現されています。日本人児童が日本語を教え、代わりに外国籍児童が外国語を教えたりもしています。

    川口氏が知る限り、ここ数年間、同団地に不就学児童はいない上、まなびや出身者が大学に進学する等、着実に成果を上げています。


    (2) 外国籍住民の支援

    川口氏は、九番団地の外国籍住民から就業、病気、DVなど幅広い分野について相談(生活相談・教育相談)を受けています。この活動はまなびやの活動というよりも川口氏が単独で行っている性格が強く、相談場所もニーズに応じて様々です。日本人の高齢者の相談を受けることもあります。


    (3) 各種イベントなど

    まなびやでは、ハロウィンパーティー、クリスマス会、進級・進学お祝会など、子ども達を中心としたイベントを開催しています川口氏は、九番団地の外国籍住民から就業、病気、DVなど幅広い分野について相談(生活相談・教育相談)を受けています。この活動はまなびやの活動というよりも川口氏が単独で行っている性格が強く、相談場所もニーズに応じて様々です。日本人の高齢者の相談を受けることもあります。。

    また、港区多文化共生推進協議会主催の交流事業(お祭り)にも参加しており、まなびやでの活動経験を活かして企画内容の提案など、交流事業を盛り上げるため積極的に尽力しています。

    さらには、「絵本のひろば」という世界各国の絵本に触れることのできるイベントにも関わりました。同イベントは大阪でしか開催されていませんでしたが、その存在を知った川口氏が公益財団法人名古屋国際センターにかけあい、他のNPO法人等と協力し、名古屋での開催に漕ぎつけました。


    (4) 他団体との交流・連携

    NPO法人コリアンネットあいち、FMC(フィリピン人移住者センター)、NPO法人東海外国人生活サポートセンター、子ども支援の団体、社会福祉協議会等と、主にイベントを通じて交流しています。


  4. 活動の成果

    平成20年10月に数名の外国籍児童の参加からスタートしたまなびやですが、現在は約20名が常時集会場で活動する団体に成長しました(参加者数は最大80名程)。また各種イベントに協力したり、他団体と連携して多文化共生のための活動を精力的に行っており、愛知県内の多文化共生のための活動・イベントにおいて重要な役割を果たすようになっています。

    このように、川口氏の活動は、九番団地を中核としつつ、名古屋市港区、愛知県内へと着実に広がりを見せており、今後さらに拡大していくものと思われます。


  5. 最後に

    川口氏は、学生時代に陸上競技で培った体力、精神力と、子ども達や多文化共生に対する熱い思いを持って、日々、奮闘されており、その活動の量は調査を担当した私が心配になるくらいでしたが、「子ども達や住民の方達が自分を必要としてくれていることが活力になっている」と力強く語ってくれました。

    地域に根ざし一本芯の通った活動を続ける川口氏は、まさに人権賞受賞者にふさわしく、今回の受賞を更なる活躍へのエネルギーにしていただきたいと思います。