会報「SOPHIA」 平成23年7月号より

外国人相談シリーズ

外国人の遺言作成



人権擁護委員会
国際人権部会 委員
田邊 正紀

日本に居住する外国人から遺言の作成を依頼されたらどうしますか。法定相続人が奥さんや子供だけだから作る必要はないなどとアドバイスしてはいけません。戸籍制度のない国の法定相続人の確定作業は大変ですから、遺言を作成しておいてスムーズに相続をさせてあげる必要があります。遺言の作成に当たっては、「遺言の方式」と「成立及び効力」を分けて考える必要があります。

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  1. まずは遺言の方式の準拠法ですが、「遺言の方式の準拠法に関する法律第2条」に記載があります。行為地法、遺言成立又は死亡当時の国籍国法、住所地法、常居所地法、不動産所在地法のいずれかであれば有効です。多くの国が、「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約」を批准しているか否かにかかわらず、同様の法制度を採用していますので、外国所在の財産についても、日本法に基づいて作成することに不安を感じる必要はほとんどありません。但し、アメリカに預金を有するイギリス人が、アメリカ領事館で遺言の公証を受けた場合などは、無効になる可能性がありますので気をつける必要があります。
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  3. 自筆証書遺言を作成することは、法律的には問題ありません。外国人の場合には、捺印がなくとも署名だけすれば大丈夫です(「外国人ノ署名捺印及無資力証明ニ関スル法律」)。但し、法定相続人が外国にいる場合には、検認の際に、法定相続人に対し通知を発する関係上、前述のように外国人の相続人の確定作業が発生してしまいます。また、外国に財産がある場合、当該財産所在国で再度検認手続を要請されることが多いという二度手間の問題もあります。このように自筆証書遺言は、亡くなった後のことを考えると、外国人にはあまりお勧めできません。
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  5. 公正証書遺言であれば、上記のような問題は生じません。但し、公正証書遺言は日本語で作成しなければなりませんので、日本語を解さない方の場合には、通訳人が立ち会う必要があります。証人は、通訳とは別に2人必要となります。日本の公正証書遺言は、多くの国で公的な書類として認められますので、翻訳を付ければ、外国財産の相続にも有効な場合が多いですが、財産所在地の大使館等に事前に確認することをお勧めします。
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  7. 次に、遺言の成立及び効力は、「法の適用に関する通則法」37条により、遺言成立当時の遺言者の本国法によって決まります。日本法ではないのでご注意ください。特に遺言の取消しについては、必ずしも新たな遺言が、これと抵触する範囲で旧遺言を自動的に取り消すことになるとは限りませんので、注意が必要です。
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  9. 欧米の方の場合、自己信託を希望される場合があります。欧米では、節税対策や遺留分の問題などから、遺言にとってかわる勢いのようですが、日本の場合には、節税効果はないようです。ただし、遺留分対策としてはいろいろなやり方があるようです。
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  11. 日本の公証人手数料が高いと感じ、語学に自信のある方は、遺言者の母国語で遺言書を作成し、遺言者の国籍国の領事館等で公証を受けるという方法もあります。遺言書の書式は、無料のものがたくさんあります。
    (http://www.lectlaw.com/formb.htmなど)。
    例えば、在名古屋アメリカ領事館では、月1回公証サービスを行っています(予約制)。
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