会報「SOPHIA」 平成23年6月号より

夫婦別姓求める違憲訴訟始まる



夫婦別姓選択制の実現をめざす−あいち別姓の会世話人
会員 二宮純子(にのみやすみこ)

  1. 本年2月14日、夫婦別姓を望む男女5人が夫婦同姓を定めた民法 750条は、憲法13条、24条等に違反するとして、国及び荒川区に対し、東京地裁に国家賠償等の訴訟を提起した。訴状の概要は2項〜5項の通り。

  2. 姓は原告らの人権、人生そのものと不可分であって、これを奪われることは自身を喪失するに等しい苦しみがある。従って、原告らは姓を保持したままの法律婚を望んでいる。しかるに夫婦別姓の婚姻届が認められないため、事実婚の原告らは相続権がないなど法律婚による利益を享受できず、旧姓を通称使用している原告らは、戸籍名と自己との違和感に悩み、日々不便、不利益を蒙っている。

    よって、事実婚の原告夫婦は荒川区に対し、別姓の婚姻届が不受理とされた処分の取消と国に対する不受理による慰謝料各50万円を、原告5人は国に対し、別姓の婚姻届が受理されないことによる慰謝料各 100万円を請求した。


  3. 憲法13条は人格権の中核的権利として氏名保持権を保障している。また、憲法24条は「婚姻の自由」「夫婦の同等の権利」「両性の本質的平等」を規定している。しかるに民法750条はこれらの規定に違反している。

  4. 女性差別撤廃条約16条は「自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利」「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む)」を確保することを締結国に義務付けているが、民法 750条はこれに違反する。

  5. 立法不作為と国家賠償法1条1項の違法性について

    夫婦双方が氏名保持権及び婚姻の自由を保障されるためには民法 750条を改正して選択的夫婦別姓制にすることが必要不可欠であり、そのことは明白である。

    しかし、法務省は、法制審で5年強にわたり審議し法律案要綱まで作成し(1996年)、内閣府は男女共同参画基本計画等で選択的夫婦別姓の導入を提言し続け、被告国は女性差別撤廃委員会から度重なる勧告を受けてきたが、国会は、これらを一切無視し法改正をしない。女性差別撤廃条約が発効してから26年、法律案要綱公表から15年を経ており、国会が、何ら正当な理由なく長期にわたって立法措置を怠って来たことは明らかであり、国家賠償法1条1項の違法な行為に該当する。


  6. 婚姻届不受理処分の取り消しについて、東京地裁は本年2月24日に行政訴訟でなく、戸籍法に基づき家庭裁判所に申し立てるべきという理由で却下した。原告弁護団は控訴し、婚姻届不受理処分の取消は実体的権利義務の確定を目的とする訴訟事件に該当するので非公開の審判以外に公開の法廷での訴訟を認めないのは違憲と主張し、争っている。

  7. 東京地裁の本年5月25日の第1回口頭弁論での被告国の答弁は「夫婦同氏の原則が相当かどうかは立法政策の問題」「憲法13条24条は夫婦別氏を選択できる権利を保障するものではない」などと主張し、争う姿勢である。

    同日の原告の裁判報告会で原告塚本協子さん(通称使用、75才)は「夫婦別姓が認められて、塚本姓で生き、死にたい。去年、別姓法が実現せず絶望したが、政治がだめなら司法があると思った」と提訴の心境を語った。