会報「SOPHIA」 平成22年8月号より

「特集 中高生のためのサマースクール」

失恋放火事件


〜消せなかった恋心? 

(刑事模擬裁判)

法教育特別委員会委 員 水野吉博
 

「評議を一層充実させよう!」
 本年度、模擬裁判チームが目標としたことです。同年代ではあるものの、初対面の別の学校の生徒達と「評議」をする、ここにサマースクールの模擬裁判の醍醐味があります。そして、「評議」での中高生の議論は、例年、想像以上に熱く、そして深いものです。
 今回の模擬裁判では、放火事件を題材にしました。クリスマスイブの深夜、アパートから出火、被告人は被害者の「元カノ」という設定で、出火直後の現場から飛び出してきた被告人を見た、という目撃証言を中心に、合鍵、ライター、メールなど、様々な証拠から@犯人性を検討してもらうという内容です。

 しかし、先の目標を達成するためには、@犯人性の検討だけでは面白くないと考え、被告人は任意取調べにおいて一旦は自白したという設定にし、A取調べの違法性の問題、さらに、目撃証言について、捜査機関が目撃者に先入観を持たせた上で被告人のみを面通ししたという設定にし、B捜査方法の問題点の検討と、欲張って3つのテーマを盛り込んだシナリオを作成しました。
 正直、分量が多いのではないか、また、内容が内容だけに、弁護士が啓蒙的に解説するような一方的な評議になってしまわないだろうか、という懸念もあったのですが、全くの思い過ごしでした。
 @については、例えば、目撃証言については、視認条件について様々な角度から分析的な議論がなされましたし、Aについては、取調べの可視化の問題、Bについては、捜査機関が証拠を台無しにした、という鋭い指摘がなされるなど、いつにも増して、対立した意見が飛び交う白熱した評議になりました。

 また、評議では、当日、サマースクール校長として、模擬裁判劇開会の挨拶をした熊田登与子委員長の容姿や服装等を記憶しているのか、といったテストなども行い、人の記憶というものが、いかに曖昧なもので、人的関係等に影響される特別なものだということを体感頂けたのではないかと思います。
 ちなみに結果なのですが、模擬裁判劇を見終わった直後の心証としては、無罪2に対し、有罪1の割合であったのが、評議の後は、ほぼ半々になりました。無罪→有罪と意見が変わった子どもだけでなく、有罪→無罪に意見が変わった子どももいて、皆、本当に熱心に議論し、考えてくれたのだなと感じました。
 アンケートの感想でも、「お互いに意見を主張し、その意見を一つ一つ考えていき、自分の意見が揺れていくのがとても難しかった」、「自分の意見が納得してもらえるところが嬉しかった」などのコメントを頂き、冒頭の目標は達成できたのかなと思っています。

 それもこれも、58期の3名を除くと全員が60期以降という、若手中心で構成した模擬裁判チームが、演劇のみならず、子ども達の自発的な意見を引き出す工夫を真剣に考えてくれ、また、委員長はじめ、多くの経験豊かな会員が練習会に顔を出してくださり、支えてくださった結果だと思います。
 「社会が好きになりました」  この感想に、模擬裁判に関わった会員全ての思いが報われた気がします。