会報「SOPHIA」 平成20年04月号より

はたしてサシバへの影響は…
トヨタテストコース予定地を見学して


公害対策・環境保全委員会 委員 向 井 小百合

トヨタ自動車が愛知県内で計画しているテストコースなどの研究開発施設の予定地に、絶滅危惧種のサシバの営巣が確認されるなど、環境面における様々な問題について考えるため、本年4月13日(日)に当委員会の委員10名ほか総勢16名で、同予定地へ見学に出かけました。現地では「21世紀の巨大開発を考える会」の織田重巳氏に案内をして頂きました。



<テストコースとは>

トヨタ自動車は、旧下山村(現豊田市)に、約5000人が働く研究棟とテストコース(幅30メートル、6キロメートルの周回コース)を作るために、総面積660ヘクタール、造成面積410ヘクタールの大規模開発を計画しています。予定地である里山や農地を削って平地を作り、研究施設や周回コースを作るという計画です。開発予定地の広さは、簡単に言うと、愛知万博の長久手会場(158ヘクタール)の4倍、名古屋ドーム429個分、といった大きさです。

愛知県が、豊田市からの要請を受け、県の事業として、調査、用地確保、造成事業を担当することとなっており、県は、この一事業を担うため、51人体制の研究施設用地開発課を新設しています。


<環境への影響>

予定地周辺は、環境影響評価報告書にもあるように、生物の多様性に富んだ、典型的な里山の生態系の存在するところです。このような里山の広大な面積を造成してしまえば、動植物に対する影響は必至です。造成そのものだけではなく、研究施設で約5000人が働くこととなれば、通勤道路の拡充も必要となり、予定地以外の場所でも環境への影響が生じます。

同報告書や愛知県野鳥保護連絡協議会によりますと、該当地域には、周辺部を含めて国指定天然記念物のヤマネ、ニホンカモシカを含む15科28種の哺乳類、35科104種の鳥類、6科16種の両生・は虫類、国指定天然記念物のネコギギを含む14科32種の魚類の生息がこれまでに確認されているとのことです。とくに予定地は、サシバ(国・県指定絶滅危惧・類)、ハチクマ(国指定準絶滅危惧種・県指定絶滅危惧・類)、オオタカ(国・県指定準絶滅危惧種)、ハイタカ(国県指定準絶滅危惧種)、コノハズク(県指定絶滅危惧・A類)、アオバズク(県指定準絶滅危惧種)、フクロウ(県指定準絶滅危惧種)、ノスリなど、生態系の頂点に立つ猛禽類の繁殖地やえさ場となっている地域とされています。猛禽類の他にもミゾゴイ(国・県指定絶滅危惧・B類)、ブッポウソウ(国指定絶滅危惧・B類・県指定絶滅危惧・A類)、ヨタカ(国指定絶滅危惧・類・県指定準絶滅危惧種)、サンショウクイ(国・県指定絶滅危惧・類)等の生息も確認されているとされています。

本計画が、これらの貴重な絶滅危惧種の生息環境に与える影響を懸念せずにはおれません。


<自然を満喫!>
 

当日は、ノスリ、鴬、鳶などが止まっているところが確認できました。また、植物は、ツクシ、在来種のタンポポなどの素朴なものや、タラの芽も確認できました。

わたしは残念ながら見ることができませんでしたが、他の委員は、運良く、予定地上の空高く飛び回るサシバを見ることができたとのことです。野鳥を見慣れた方たちによると、鳴き声や羽と体や尾の長さとの比率、尾の形などからあたりをつけて、望遠鏡をのぞいて確認するそうです。案内人の織田氏の説明を聞きつつ、望遠鏡をかわるがわる覗き込んで、初めて見る野鳥に感激し、鳥のさえずりをBGMに、テストコース予定地内でお弁当を広げ、すばらしい自然を満喫しました。


<COP10の開催地で・・・>

愛知県では2010年に生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催されます。

近年、野生生物の種の絶滅が過去にない速度で進行しています。生物多様性条約は、地球上の多様な生物をその生息環境とともに保全することなどを目的として締結されている条約で、1992年6月、わが国もこの条約に署名しました。気候変動に関する国際連合枠組条約と共に、環境面における最も大切な条約とされており、2007年12月時点で189か国とECが締結しています。2002年、COP6で「締結国は現在の生物多様性の喪失速度を2010年までに顕著に減少させる」という目標が立てられました。2010年は、その目標年であると共に、国連において国際生物多様年とされる予定であり、COP10がその大きな節目となることを期待されています。

その開催地である愛知県で、このように多くの絶滅危惧種の生息に多大な影響を与えかねない計画が、県の事業として進められようとしていていいのでしょうか?

かつて愛知万博では、オオタカの営巣地のために計画を変更したということもありましたが、今回のテストコース開発では、計画の「変更」程度で絶滅危惧種の保護が図られるかどうかも不明です。

今後、環境面での影響を慎重に調査・考慮していただきたいと切に希望するところです。


<自然は誰のもの?>

テストコース予定地は「自然がいっぱい」ではあるのですが、山林は久しく手入れがされていない様子であり、農地もまた同様でした。予定地内の土地所有者達の意見は様々ですが、「今は農業や林業をやっているが、子供の代では続けることができないので、土地を買い取ってもらった方がいい」と考える人も少なくないとのことでした。所有者としては、条件が合うなら売却も、という考えも合理的といえるのでしょう。

しかし、自然は一度壊してしまえば、二度と元には戻りません。本来、自然は誰のものなのだろうか、どうしたらいいのだろうかと考えずにはいられませんでした。







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