中部経済新聞2016年09月掲載
塾の中途解約 お金は戻るの?

うちの息子の話なんだけどね、せっかく塾に入れてやったというのに「もう塾には行きたくない」などと言いだしたんだよ。

親の心子知らずということですかね。

3か月ももたなかったけど息子にやる気がない以上、塾を続けさせても意味がないから、退塾の手続をとることにしたよ。ここで、1つ相談したいんだけどいいかな。

なんでしょう。

息子の通っていた塾は、授業料を前払いで支払うよう定められていて、既に1年分の授業料として60万円を支払ってしまっているんだ。

なるほど。

契約した以上、残り9か月分の授業料は返してもらうことはできないのかな。

塾との契約の内容によりますね。

契約書には「中途解約の場合には、受領済みの授業料は返還しない」とあるんだ。

9か月分の授業料が返還される可能性は十分あります。ただ、その前提として、今回の契約に特定商取引に関する法律(特定商取引法)が適用されないといけません。

どのような場合に、特定商取引法が適用されるんだい?

学習塾や語学教室、パソコン教室等の運営においては、生徒との間における契約期間が2か月を超えるものであり、かつ、生徒側から受け取る金額(入学金・受講料・教材費・施設利用料等)の総額が5万円を超える場合に適用されます。

今回の場合は当てはまりそうだ。

【クーリング・オフ】


特定商取引法の適用を受ける学習塾事業等を「特定継続的役務提供」と言うんですが、事業者がこの「特定継続的役務提供」に該当する事業を行う場合、クーリング・オフの制度が設けられています。

クーリング・オフは生徒の側に有利な制度だよね。

そうです。事業者は、契約締結前には契約の概要を記載した書面(概要書面)、また契約締結後には契約内容を明らかにした書面(契約書面)を生徒側に交付することが義務付けられています。そして、生徒側が役務の提供を受ける際、契約書面を受け取った日から数えて8日間以内であれば、事業者に対して、書面により契約の解除をすることができるのです。

今回の場合、契約書面を受け取ってから8日は過ぎちゃっているので無理だな。

それ以外にも、事業者が、事実と違うことを告げたり威迫したりすることにより、生徒側が誤認・困惑してクーリング・オフをできなかった場合は、先ほど話した期間を経過していても、生徒側はクーリング・オフをすることができます。

そういった事実は、今回はないかな。

【クーリング・オフ期間経過後の契約解除】


生徒側は、クーリング・オフ期間経過後も、契約期間中であれば、いつでも、理由の如何を問わず中途解約することができます。

そうすると、解約はできるのか。

そうです。そして、中途解約の際の既払い授業料の返還に関してですが、中途解約の時点において既に役務の提供が開始されていた場合には、生徒側は、事業者に対して、「提供された役務の対価に相当する額」と「契約解除によって通常生じる損害の額」とを合算した額を支払う必要があります。事業者側が既にこの額を超える金額を受け取っている場合には、事業者は、超過部分を速やかに生徒側に返さなければなりません。

「提供された役務の対価に相当する額」とはなんのこと?

今回の場合では、3か月分の授業料のことです。

じゃあ、「契約解除によって通常生じる損害の額」の意味は?

学習塾の場合においては、2万円若しくは1か月分の役務の対価に相当する額のうち、いずれか低い額とされています。今回の場合は1か月の授業料は5万円ですから、低い額は2万円ですね

つまり、どういうことかね?

解約にともない、実際に授業が行われた3か月分の授業に対する対価相当額に加え、契約解除によって通常生じる損害として2万円は支払う必要があります。
しかし、1年分の授業料を前払いしていますので、残り9か月分の授業料から2万円を差し引いた金額については事業者に対して返還を求めることができるというわけです。

なるほど。

ちなみに、役務の提供が開始されていない段階で契約を中途解約した場合には、事業者は、契約の締結及び履行のために通常要する費用(初期費用)を超える金額を生徒側に請求することはできません。この「通常要する費用の額」は1万1000円が上限となります。

【入会金の返還】


息子が入塾した際、入会金として10万円支払ったんだけど、これも返してもらうことはできるのかな?

入会金についても返還を求めることは可能です。役務の提供がなされていない場合には、入会金は全額返還されることになります。また、役務の提供がなされた後に中途解約した場合も、「提供した役務の対価に相当する額」と評価される入会金の額以外は生徒側に返還されます。

それは朗報だ。

なお、契約の中途解約がなされた場合、生徒側は関連商品(書籍、学習用ソフト等)の販売契約も中途解約することができることになっています。

本当かい。入塾の際に、学習用ソフトを購入していたから、それは助かるよ。

ちなみに、中途解約した関連商品の返還が可能な場合、当該関連商品の「通常の使用料(レンタル料が目安)」に相当する額を生徒側は事業者に支払う必要があります。関連商品の販売価格と中古品としての価格の差額分が「通常の使用料」を超えている時は、販売価格との差額分が、生徒側が支払う額の上限となります。

なるほどね。

なお、中途解約の際に商品を返還できない場合には、当該商品の販売価格に相当する額を生徒の側は支払う必要があります。

商品の返還ができない場合は、負担が大きくなるな。

また、特定商取引法の適用を受けると、誇大広告や虚偽告知が禁止されるといった規制も事業者は受けることになります。

色々制約があるんだね。

このような規制に事業者が違反した場合、業務停止といった行政処分や罰金等の刑事処分を受ける可能性があります。

そうなのか。色々とありがとう。退塾手続とる前に聞いておいてよかったよ。