中部経済新聞2016年8月掲載 
司法修習生手当は未来への投資

―未来への「投資」―

裁判官、検察官、弁護士(以下「法曹三者」といいます)になるには、司法試験に合格する必要があります。しかし、試験に合格しただけでは法曹三者にはなれず、法律で義務付けられた「司法修習」と呼ばれる研修を経なければなりません。この「司法修習」を受けている人のことを「司法修習生」といいます。

司法修習は、約1年間、全国各地の裁判所、検察庁、弁護士事務所等での研修(いわゆるOJT)、埼玉県和光市にある司法研修所での実務に即した研修を行い、最後に司法修習生考試という試験を受けます。これに合格すると、初めて法曹三者デビューできるのです。そこまでに、順調に行っても大学・法科大学院を含め8〜9年近くはかかります。

法曹三者となれば、すぐに裁判等に関わり、法に従い市民の皆様の権利擁護に直接関わることとなるため、司法修習中に法曹としての素養をしっかりと身に付けなければなりません。そのため、法律は、司法修習生に「修習専念義務」を課しており、原則として兼業は禁止されています(現実的にも、平日フルタイムで研修を行っている上、残業や時間外で行う課題等もあるため、兼業は困難です。)

経営者の皆さん、大事な問題をペーパードライバーのような,試験に合格しただけの人に相談するなんて考えられないでしょう。だからこそ、国が法律で司法修習を義務付け、専念義務を課しているのです。

今の制度では、司法修習生には、給与や手当は支払われずに、国から借金をすることができるだけです。

こんな状況で、大学の法学部の学生の偏差値は下がり、法曹三者を目指す若者は激減しています。法科大学院受験のための適性試験受験者数は、なんと10年前の10分の1以下となってしまっています。皆さん、当然だと思われませんか。

司法修習生への給与や手当を支払うことは、この国全体の未来への投資です。投資の重要性は、企業経営者の皆さんこそが一番よくご存じだと思います。