中部経済新聞2016年02月掲載
国際取引の注意点

当社もいよいよ海外進出だよ。あるアジアの国の会社から、「御社の商品は品質が良いので、アジアで必ず売れる。我が社と組んで販売しましょう」と持ちかけられたんだ。

それは素晴らしいですね。ただ、国際取引は国内取引と違って法的に注意を要する事項が多いので、基本的な問題点を整理しておきましょう。


▽海外取引の分類

まず、海外で御社の製品を売るとしても、その形態はパートナー企業との関係によっておおまかに次のように分類できます。
@御社が単独又はパートナー企業と合弁で現地に工場を作って生産・売買を行う方法(現地法人の設立)
A御社の特許等の技術を現地のパートナー企業に提供して生産・売買を行う方法(技術供与)
B御社が生産した製品を、直接又は商社などを通して現地のパートナー企業に売却する方法(商品の売買)


▽取引で特に注意すべきこと

先方は、@のうち、合弁会社を設立する方法を考えているみたいなんだ。

取引形態や契約内容を考えるにあたっては、確実に利益が上がるように手当すること(利益)、御社の技術が流出しないように注意すること(技術流失)、の2点を特に注意してください。パートナー企業は御社に払う金額をなるべく抑えたいでしょうし、御社の技術を習得してしまえば、御社は用なしになってしまいかねないですからね。

なるほど。そう言われてみると、合弁会社では当方は技術を現物出資して、先方は土地を含めた工場を現物出資するという話だったけど、(利益)(技術流失)両方の意味で心配だな。

@の方法は多額の初期投資を必要とする反面、エンドユーザまでに介在する企業が少なくなるので、価格競争力が高まり、成功すれば最も効率よく利益が上がるといえます。(利益)の観点からはハイリスク・ハイリターンですね。(技術流失)の観点からは、まず技術を現物出資してしまうのはリスクが大きいので、現金出資を検討すべきでしょう。また、貴社単独で現地法人を設立すればリスクを抑えられますが、販路の拡大や現地当局との折衝などを考えるとパートナー企業との合弁するメリットが技術流出のリスクを上回る場合もあります。

なるほど。当社には出資するほどの現金がないから、Aの技術供与だけにしたほうがいいような気がしてきたなあ。

Aの方法は、(利益)について、初期投資が不要な点にメリットがありますが、技術料としてロイヤルティの決め方を工夫しないと、確実に利益が確保できるとは限りません。例えば、ロイヤルティを「商品の売上の何%」と決めてしまうと、売上が思わしくない場合や、パートナー企業に売上を隠される場合にリスクがあります。最初に多額のロイヤルティを取る、年間最低額のロイヤルティを取ることなどと併用を検討すべきですね。(技術流出)リスクも、重要な技術は開示しないとか、パートナー企業の競業を禁止しておくなどの手当が必要ですね。

そういわれると価格競争力の問題があっても、B(商品の売買)の方がリスクは少ないのかな。

たしかに(技術流出)リスクは相対的に少なくなります。しかし、(利益)の観点からは、パートナー企業の最低購入量などを決めるなどの対策が必要です。特に、パートナー企業に対して、一定の国や地域の範囲内で独占的に販売することを認める場合、他の企業と組んで販売することもできなくなるので、注意が必要です。


▽紛争解決方法

なるほど。取引の法的な形態と契約内容の重要部分を念頭において交渉を進めなければならないことがよく分かったよ。ところで、いざ紛争になったら海外では大変だから名古屋の裁判所で裁判できるようにしたいなあ。

紛争解決の方法にも注意が必要ですよ。中国やベトナムなどでは、日本の裁判所の判決は執行できないことになっているので、裁判で勝訴しても強制的に履行させる方法がなくなってしまいます。国際取引における紛争解決については、民間の機関による「仲裁」の方法によると契約書で規定することが多く、この方法だとほとんどの国で執行が可能になります。相手方企業の所在地の法律や契約の規模などを踏まえて、どの仲裁機関にするか慎重に選択する必要があるので、弁護士に相談してください。


▽覚書の法的拘束力

しまった。現地で相手方企業と会談した時に「今日の話合いの内容をまとめておきましょう」といわれて、軽い気持ちで覚書にサインしたんだけど、「裁判は名古屋の方がいい」と思ってそう書いてしまったよ。

覚書や議事録でも「法的拘束力がない」とはっきり書いておかないと法的効力が認められてしまう場合があるので注意が必要です。今後正式な契約書を締結する際には是正しなければなりませんね。

国際取引は相手方から接触があった段階から国際取引に詳しい弁護士に相談しながら進めていかなきゃならないことがよく分かったよ。

日本弁護士連合会では「中小企業の海外展開に関する法的支援制度」といって、国際取引に精通した弁護士が初回30分間無料相談に応じ、その後も契約書作成などの業務を引き受ける制度を用意しています。愛知県弁護士会でもこの制度を紹介する受付窓口を設けておりますのでお気軽にお問い合わせください。
(電話 052-203-1651)