中部経済新聞2015年12月掲載
「罰金10万円の看板」その法的効果は?

この車の所有者に10万円請求して!

お怒りですね。どうされたんですか。

最近、うちの会社の駐車場に、夜間、この車が、頻繁に無断駐車しているんだ。防犯カメラにばっちり写っているよ。

なるほど。

警察に相談したんだけど、私有地内のことだから対応できないと言われて。

盗難車といった事情がないと、警察も簡単には動くことはできないでしょうね。

そこで先日「無断駐車した場合、罰金として10万円請求します」と看板を立てたんだ。それでも無断駐車しているんだよ。

それで10万円の請求だったのですね。しかし、社長、そう簡単に10万円請求できるわけじゃないんですよ。

どうして?

細かい話ですが、罰金は国家が犯罪者に対して科す制裁の一種で、私人が請求するものではありません。

それはわかっているよ。罰金というか、使用料のつもりだね。

会社がその無断駐車した人に何らかの金銭を請求する場合、契約によるか、不法行為によるか、2種類の方法が考えられます。

しかし「罰金として10万円を払います」という合意(契約)が、会社と無断駐車した人との間で成立したとは考えにくいですよね。

それはそうだね。契約による請求は難しいわけだね。

そうですね。

不法行為だと10万円は請求できないの?

不法行為で認められる損害は、一般的に、不法行為があった場合となかった場合との利益状態の差を基準に算定します。ですから、実際の損害が10万円であれば別ですが、数時間の無断駐車による損害でしたら、付近の駐車場の相場を基準に、損害額はそれと同等か、2〜3倍といった程度でしょうか。

看板に書いた金額をそのまま請求できるわけではないんだね。納得できないな。

お気持ちは分かります。もちろん、無断駐車を許してはいけません。繰り返し駐車していたことは防犯カメラで立証できるでしょうから、過去の分も含めてきちんと損害額を算定し、内容証明郵便で請求しましょう。

車の所有者の住所はわかるの?

陸運局の事務所で手続きをとればわかります。まずはそこからですね。

二度と無断駐車をさせないためにも、きちんと対処するよ。

  


無断駐車の事例だと当然には10万円請求できないのはわかったよ。じゃあ、うちの娘のレンタルDVDの延滞料はどうなのかな。1日あたりの延滞料300円と書いてあるけど、この前、娘が1か月もDVD借りっぱなしにしていて、かなりの金額を請求されたみたいなんだ。

レンタルDVDの場合は、無断駐車の事例と異なり、当事者間において賃貸借契約が成立しています。契約では、不法行為とは異なり、事前に損害額等を定めておくことができます。会員契約をした際に交付された会員規約等に、延滞料の規定がありませんか。

確かに延滞料1日300円との規定はあるね。

そうなると、延滞料について会員規約のとおりの金額を支払わなければならないのが原則になります。

それはそうか。娘もなくなく支払ったみたいだけど。ただ、DVDは新品で購入しても、5〜6千円でしょ。それよりも高額の延滞金を支払うというのも感覚的にどうかと思うんだけど。

確かに、延滞したことは悪いとはいえ、あまりに高額の延滞料を請求されるのも不当に思われます。

この点は消費者契約法が問題となります。

この法律は、事業者と消費者との間の契約に関して、消費者の利益の擁護を図るべく、民法の原則を修正するものですが、「民法、商法、その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し…消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項(=信義誠実の原則)に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効」と規定しています。

今回の件で言うと、たとえ1日あたりの延滞料が低額でも、上限なく延滞料が発生すると、その金額が相当高くなり、消費者(レンタルショップの会員)が一方的に過大な不利益を被るので、過大な損害部分については無効になる可能性があります。

この過大な損害部分の評価において、DVDの定価はひとつの判断材料になるかもしれませんね。

なるほどね。

でも、一番はそんな杜撰なことをしている娘の生活態度だな。きちんと叱らないといけないね。

無断駐車もそうですけど、やはりモラルをきちんと守らないといけませんね。