中部経済新聞2015年09月掲載
不貞行為の代償は重い

昨日、学生時代からの友人に会ったんだけどね。

いいですね。楽しかったでしょう。

それがさ、そいつが元気がなくてね。理由を訊いたら、飲み屋の女性といい仲になっちゃって、それを知った奥さんと揉めているんだって。奥さん、友人にも相手の女性にも慰謝料を請求するって言っているらしい。

それは大変なことになっていますね。

うん。やっぱり、請求されたら2人とも慰謝料を払わないといけないのかな。

そうですね。不貞行為があったのであれば、支払う義務があるでしょうね。

不貞行為って、どんな行為のこと?

最高裁の判決によると、不貞行為とは、「配偶者のある者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」とされます。

性的関係ねえ。だけど、そもそもどうして不貞行為があると慰謝料が発生するんだろうね。

夫婦には、お互いに婚姻生活の平穏を維持する権利または法的保護に値する利益があるとされます。例えば、夫が不貞行為をした場合、夫と不貞相手の女性が共同して、妻のこのような権利または法的な利益を侵害したことになり、これが不法行為(民法709条)となるために精神的苦痛に対する慰謝料請求権(民法710条)が発生するんです。

なるほどね。そうなると、奥さんは夫と不貞相手両方に慰謝料を請求できるの?

はい。法的には、不真正連帯債務といって、夫と相手女性は妻に対する慰謝料債務を連帯して負うことになります。その結果、妻は、夫と相手女性の両方に慰謝料を請求することもできますし、どちらか片方にのみ請求することもできるのです。
離婚に至らないケースでは、家計を一緒にする夫に対して慰謝料請求をしても、夫婦全体でみれば実質的にプラスにならないとして相手女性にのみ請求する場合も多いですね。

 

片方だけ払わされるのはなんだか不公平な気がするけどなあ。

そうですよね。ですから、例えば不貞をした一方のみが慰謝料を請求されて、全額払ったとしましょう。その場合、払った人は、他方当事者、つまり不貞相手に対して「自分が全額払ったのだから、あなたが払うべき分を私に払ってください。」と請求することができるんです。これを求償と言います。

そうなんだ。じゃあ、自分だけが請求されたときは、半分だけ払えばいいのかな。

そういうわけではありません。あくまで被害者の立場である妻の利益が優先されますから、請求を受けた側は全額支払う責任があるのです。

全額払ったあとで求償という話になるわけだね。それで、慰謝料はだいたいどのくらいの金額を払うことになるの。

「これくらいつらい思いをした」という精神的苦痛を金銭に換算するのは難しいため、慰謝料についてはっきりとした相場はありません。ただ、多くの裁判例では、@夫婦の婚姻期間及び不貞期間の長さ、A不貞により夫婦の婚姻関係が破たんしたか、B夫婦の間に未成熟子がいるか、C不貞関係のきっかけや交際態様、といった様々な要素を考慮して不貞の慰謝料額を決めているようです。

具体的にはどうやって考慮しているんだい。

例えば、一般的には、夫婦の婚姻期間が長ければそれだけ夫婦間の信頼関係も厚く、不貞があった場合の苦痛も大きいとされます。不貞期間も、長いほうが当然に精神的苦痛が大きくなります。不貞により夫婦の婚姻関係が完全に破たんして離婚に至ってしまったような場合や、夫婦の間にまだ養育を必要とする子がいる場合なども、慰謝料が高くなる要素と言えます。さらには、どういう経緯で不貞に至ったのかや、不貞の頻度なども考慮されるのです。不貞相手と同棲していたり、不貞相手が妊娠した場合なども、不貞をされた配偶者の精神的苦痛は大きいと言えるでしょうね。

事情によって金額は違ってくるということだね。じゃあ、例えば、不貞の当事者双方が既婚者の場合、慰謝料はどうなるんだい。

いわゆるダブル不倫の場合ですね。この場合はなかなか難しいことになります。夫Aが不貞をした場合、妻BはAと相手女性Cに対して慰謝料請求ができますが、他方で、Cの夫Dも、CとAに対して慰謝料請求ができることになります。

双方の夫婦がともに離婚に至るのであれば、BもDも、自分の配偶者が慰謝料請求をされても関知しないでしょうから問題ありません。しかし、片方の夫婦のみが離婚に至る場合や、不貞の事実をBとDのどちらかが知らない場合などは、ややこしくなります。不貞の当事者であるAとCとで、支払うべき慰謝料に差が出たり、場合によっては片方のみが支払う結果もありうるでしょうね。

なかなか難しいんだね。いずれにしても、関係者はみんなつらい思いをするんだろうなあ。

そうですね。不貞をした当事者は、もちろん金銭的な責任を負いますし、不貞行為は離婚原因(民法770条)にもなります。ただ、配偶者や子どもといった大切な人を傷つけ、その人たちの人生にも影響が出てしまうことそのものへの責任のほうが大きいかもしれませんね。

それが一番大きいよね。友人も自業自得とはいえ大変な状況だろうから、よかったら相談に乗ってやってほしいな。

ええ、もちろんです。

いやはや、本人にとっては軽い火遊びのつもりでも、不貞の代償っていうのは大きいね。やっぱり家庭円満が一番だなあ。