中部経済新聞2014年06月掲載
死刑冤罪は最大の人権侵害

1 袴田事件

袴田巌さんが釈放されたニュースを見ましたか。袴田さんは死刑確定者ですが、静岡地方裁判所で再審開始決定と死刑及び拘置の執行停止決定を受けたのです。逮捕されてから47年ぶりでした。この地方でも9年前には、名古屋高等裁判所で死刑確定者の奥西勝さん(名張毒ぶどう酒事件)の再審開始決定が出されました(最終的には再審開始決定は覆されました)。現在でも、死刑冤罪が存在する可能性があるのです。

2 死刑冤罪は最大の人権侵害

生命を奪われない権利は、すべての人権の基礎となる権利です。死刑は国家が人の命を奪う刑罰ですから、死刑冤罪は国家による最大の人権侵害です。このような死刑冤罪を防ぎ、生命権を守るために、刑事司法手続きは確固とした人権保障手続でなければなりません。

3 スーパー・デュープロセス

冤罪を防ぐためには、刑事司法手続は公正でなければなりません。これをデュープロセス(適正手続)といいます。

死刑存置州のあるアメリカ合衆国では、連邦憲法と連邦最高裁の判例により、死刑事件については、冤罪を防ぐために、一般的なデュープロセスより更に厳格で手厚い刑事司法手続が求められています。これはスーパー・デュープロセスと呼ばれています。具体的には、州法にもよりますが、有罪と判断された後に別途、死刑判断をするための加重事由や減軽事由を検討することが要求されているようです。

死刑判決は被告人の意思に関係なく自動的に上訴されます。逆に無罪判決に対する検察官上訴は禁止されています。

そして、全ての段階で国選・公選弁護人が保障され、事実調査、鑑定などの弁護費用も保障されています。

4 日本の刑事司法と死刑冤罪

ところが日本では、死刑判決は多数決で決められ、自動的に上訴される制度はありません。下級審における無罪判決に対する検察官による上訴も認められています。死刑判決も考えられる事件における国選弁護士の費用も著しく低く抑えられています。そして、死刑確定者に対する国選弁護制度もありません。 袴田事件も名張事件も、公的な支援は一切なく、日本弁護士連合会や各地の弁護士会の支援と、各弁護士の手弁当によって支えられています。

5 冤罪は不可避

日本の刑事司法手続を改革することで死刑冤罪を減らすことはできるでしょう。しかし、アメリカ合衆国でも、1973年から昨年までの40年間に143人の死刑確定者が再審・無罪となっています。神ならぬ人間が人を裁くことが裁判制度である以上、死刑冤罪を根絶することはできないでしょう。死刑冤罪は、他の刑罰と異なり、取り返しのつかない人権侵害となってしまうことに変わりはありません。

6 刑罰としての死刑

ところで、刑罰の目的の一つが応報(行った罪に対する報い)であることは否定できません。しかし、犯罪者の更生と社会復帰も大切な目的です。この目的から見ると、死刑は、その人の更生と社会復帰の可能性を奪い去るものであるという大きな問題を抱えています。そして、国家が人を殺してはいけないと法律で定めていながら、死刑という名のもとに国家が強制的に人を殺すことも背理ではないでしょうか。

7 国際社会

2013年末現在、全面的に死刑を廃止した国は98か国、事実上の死刑廃止国を含めると140か国になります。また、死刑を執行した国は22か国で、173か国では死刑執行がありません。G8諸国で死刑を執行したのは日本とアメリカ合衆国のみです。そのアメリカ合衆国でも、18州で死刑が廃止され、死刑執行が行われているのは9州となりました。国際社会は確実に死刑廃止へ向かっています。

8 死刑廃止を考える

死刑を廃止するか否かについて多様な意見が存在します。ただ、言いっ放しのままでは死刑廃止の是非についての議論は深まりません。私たちは、死刑廃止について全社会的議論を提起しています。ぜひ、皆さんのご意見を愛知県弁護士会までお寄せ下さい。死刑廃止について、一緒に考えましょう。