中部経済新聞2013年10月掲載
特許権侵害話し合いで解決

 先生は、特許権侵害の事件も扱われますか。
 扱ってますが、一体どうしたの。

弊社もメーカーとして幾つか特許を取得しているのですが、今回同業者が弊社の特許権を侵害する疑いのある製品を売り出したのです。

それはめでたい。
侵害品を作られて何がめでたいのですか。
侵害品が出るということは、御社の製品がよく売れているからですよ。売れてない製品の類似品を作る人などいませんから。
それはそうですが、弊社もこれまで特許製品であるとうたって客先に販売してきましたので、相手方に販売を中止するか、仕様を変更してもらわないと示しがつかないのです。
であれば警告状を出しますが、相手方は警告状だけですんなりやめてくれますかね。
実は業界の会合で相手の社長と会ったときに抗議したのですが、相手もそれなりの言い分があるようで、仕様変更等は難しい雰囲気でした。
相手方の言い分は何ですか。
一つは弊社の特許権と一部違う部分がある、もう一つが弊社の特許権については無効理由があるのではないか、ということでした。
となると、東京地裁に訴訟を起こすしかないですね。
相手も名古屋の会社ですが、東京で裁判をするのですか。
今の民事訴訟法では、名古屋高裁管内以東の東日本は東京地裁、西日本は大阪地裁でしか特許訴訟はできないのです。それと、おそらく相手方は特許庁に無効審判の申立もしてくるでしょうね。
 無効審判となると弁理士の先生もお願いすることになりますね。
今は侵害訴訟においても権利無効の点が争点になりますから、訴訟には弁理士さんも加わってもらった方が良いでしょう。逆に特許庁の無効審判については私も同行した方が良いと思います。裁判所での主張と矛盾がでても困りますから。
弁護士さんと弁理士さんがそれぞれ東京に通うわけですか。
そうなります。着手金も無効審判と侵害訴訟それぞれに二人分発生しますし、日当・交通費もそれぞれの手続に二人分発生します。
そこが問題なのです。実は弊社の今期の決算はあまり数字が良くないのです。この商品はそこそこ売れてますが、他の製品が苦戦してるのです。
訴訟費用で沢山費用がかかるのはどうにもならん、という訳ですね。
そうなんです、申し訳ありません。
謝る必要はないですよ、企業たるもの、良いときもあれば悪いときもありますから。
相手の社長も、費用の点や負けたときのダメージもあるので、裁判所など然るべきところで方向性を出してもらえれば、何とか解決したい、との意向はあるようなんですが。
それなら、知的財産仲裁センターを利用してみましょうか。
何ですか、それは。
弁理士と知的財産権に詳しい弁護士が当事者の間に入って、基本的には話し合いでの解決をめざす手続です。弁護士・弁理士の費用はかかりますが、これなら名古屋で出来ますので交通費や日当は発生しません。弁護士や弁理士の費用も、訴訟と無効審判の両方やることに比べれば安くすみます。

白黒を付けるという場ではないということですか。

基本的には話し合いで解決をめざします。双方が納得すれば、ロイヤリティの支払いという方向での解決もできます。

弊社としては相手方がロイヤリティを払ってくれるのであれば、ウェルカムなんですが。

そういった方向であれば、訴訟よりも適した制度です。

先生方の費用と別に、利用料金は必要なんですか。

センターへの申立手数料が五万円、期日手数料が一回につき五万円です。

思ったよりも安いですね。

知財紛争というと直ぐに裁判所での判決を想像する人が多いのですが、解決策はそればかりではありません。止めさせるよりもロイヤリティをもらって商品を広く普及させる方がメリットの大きい場合もあります。知財紛争をどう解決するかは、企業戦略の一環として検討するべきなのです。

我々も勉強しなくちゃいけませんね。

実は仲裁センターの企画で、10月30日にシンポジウムが開催されます。企業で長年知財を担当してきた人からの紛争解決の体験談や、弁護士・弁理士の座談会が内容です。社長も一緒に聴きに行きませんか。勉強になりますよ。

是非お願いします。


知的財産仲裁センターシンポジウム

「知財の紛争解決は勝訴を目指すだけじゃない!」

平成25年10月30日(水)午後2時より

名古屋商工会議所三階大ホール

講師 西野卓嗣氏(元シスメックス(株)執行役員知財本部長)

(問合先 愛知県弁護士会052(203)1651)


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