中部経済新聞2013年08月掲載
後継者が悩まないですむ事業承継──議決権制限株式の活用を

 中小企業のオーナー経営者が遺言書で後継者に会社の株式を取得させるというのも、なかなか難しいんだってね。
 そうですね。他の相続人がいると、遺留分の問題がどうしても出てきますからね。

 現金があまりないと、後継者以外の相続人に遺留分に見合った株式を取得させることになるのだろうけど、後継者の会社経営が難しくなりそうだし。困ったものだね。

 ただ、後継者以外の相続人に株式を取得させても、後継者が会社経営を支配することができる方法もあるんですよ。
 えっ、そんな方法があるの?株式を取得させたら、株主総会で反対されてしまったりするのでは?
 そうならないように、議決権がない株式を取得させるのです。
 

〈議決権制限株式〉

 議決権がない株式ってどういうもの?
 剰余金の配当や議決権の行使できる事項など他の株式とは異なる権利内容を持つ株式のことを種類株式というのですが、その種類株式で、議決権に制限が付されている株式のことを「議決権制限株式」といいます。
 この議決権制限株式を後継者以外の相続人に取得させ、後継者には議決権を有する普通株式を取得させることで、後継者が会社を支配することができるというわけです。
 なるほど。そんな株式も発行することができるんだね。
 

〈議決権制限株式の発行には定款変更が必要〉

 それでは、議決権制限株式を発行する場合には、何が必要となるのかな?
 議決権制限株式を発行するには、株主総会による定款変更の決議が必要となります。
 定款では、@当該種類株式(議決権制限株式)が株主総会において議決権を行使することができる事項、Aその議決権行使のために条件を定めるときはその条件、B当該種類株式の発行可能総数を定めなければならないとされています
 株主総会において行使することができる事項というのは?
 例えば、議決権制限株式の内容として、議決権のすべてを制限して、議決権を全く有しないものとすることも可能ですが、議決権を一部だけ制限し、解散や合併・事業譲渡といった特別な事項については、議決権を行使することができるとすることも可能です。
 なるほど。そういう事項であれば、議決権を与えても、日常の会社経営にはあまり影響はなさそうだね。
 定款変更には、総議決権数の過半数の議決権を有する株主の出席した株主総会において、出席議決権数の3分の2以上の多数をもって決議されなければならないとされています。
 今なら私と妻の分をあわせれば3分の2以上の議決権はあるなぁ。後々に備えて、定款変更しておこうかな。それで、具体的にはどのような方法をとればいいのかな?
 事業承継のために議決権制限株式を発行する方法は、いくつかあって、どの方法がよいかは会社によって異なるんですよ。
 

〈具体的発行方法〉

@議決権制限株式を新規に発行する方法

 まず、議決権制限株式を新規に発行し、それをオーナー経営者が有償で取得して、議決権を有する普通株式を後継者に取得させ、新たに取得した議決権制限株式を後継者以外の相続人に取得させるという方法です。
 ただ、有償で取得するとなると、資金が必要となるね。

A議決権制限株式に変更する方法

 資金が必要とならない方法としては、経営者の保有する株式の一部を議決権制限株式に変更し、議決権を有する普通株式を後継者に取得させ、変更した議決権制限株式を後継者以外の相続人に取得させるという方法があります。
 なるほど、そういう方法なら、新たな資金は必要ないね。
 ただ、オーナー経営者の他にも株主がいるような場合には、経営者の議決権の比率が低下してしまうということになります。
 そうか。自分の持っている株式の議決権を制限することになるからだね。この場合に何かよい方法はないのかな。

 

B無償で議決権制限株式を割り当てる方法

 オーナー経営者の他にも株主がいるような場合には、既存の普通株主全員に、その持株数に応じて無償で議決権制限株式を割り当て、議決権を有する普通株式を後継者に、無償で割り当てられた議決権制限株式を後継者以外の相続人に取得させるという方法があります。
 なるほど。持株数に応じて平等に割り当てられるのであれば、議決権は低下しないね。
 このように議決権制限株式を事業承継に利用する場合には、株主総会の招集や定款変更が必要となりますし、手続に問題があると後から無効となってしまうおそれがあるので、事業承継を考える際には、弁護士に相談してください。
 相続でもめて会社の経営がうまくいかなくならないように、早めに相談するようにするよ。