中部経済新聞2013年06月掲載
事業承継の対応は生前に-遺言書を作成しましょう-

 最近、ゴルフ仲間の運送会社の社長が亡くなってね。
 奥さんと3人のお子さんが、相続のことでもめているらしいんだ。
 何でも、その運送会社の株をどうするかでまとまらないんだって。
 遺言書はなかったんですか。
 それが、交通事故で突然亡くなってしまったから、遺言書はないそうなんだ。
 従業員8名の株式会社で、株式も全部その社長が持っていたんだけど、まさか亡くなるなんて考えていなかったんだろうね。
 そういう場合、会社はどうなるんだい?
 遺産分割協議により後継者が決まり、その人に株式を帰属させることでまとまれば、その後継者が会社の経営を行うことができます。
 この場合、遺産分割が終了するまでは、株式等の相続財産は後継者を含めた相続人全員の共有となります。
 遺産分割協議がまとまらなかったらどうなるんだい?
 その場合は、遺産分割調停、審判などにより、最終的には、法定相続分に従って分割されることになります。
 この場合ですと、奥さんが2分の1、3人のお子さんが6分の1ずつということになります。
 株式も分割されてしまうんだ。
 そうだとすると、他の相続人に反対された場合、後継者が安定的に会社を経営していくことが難しくなるね。
 そうならないように、株式を後継者に承継するというような遺言書を作成しておく必要があるわけです。
 なるほど。
 今は元気だから考えていなかったけれど、会社の経営ということを考えると、遺言書は必要だね。
 そうです。
 会社の経営権を巡る争いが生じると、事業がうまくいかなくなってしまいかねませんからね。
 なるほど。遺言書を書いておけば、大丈夫なんだね。
 ただ、遺留分という制約があるので注意が必要です。
 えっ。遺留分とはどういうものなんだい?
 原則として自分の自由な意思により贈与や遺言で資産を処分することができるのですが、民法では、家族の生活の安定を侵害しないように、配偶者、子(直系卑属)や親(直系尊属)に対して、自由な意思によっても侵すことができない持分を定めているのです。
それが、遺留分というものです。
 なるほど。自分の財産であっても、自由に処分できない部分があるということだね。
 本件のような相続人が配偶者と子供という場合は、遺留分は相続財産の2分の1と規定されています。
 そのため、法定相続分から計算すると、配偶者の具体的な遺留分割合は、相続財産に対する4分の1(2分の1×2分の1)、子の1人あたりの具体的な遺留分割合は、それぞれ12分の1(2分の1×6分の1)となります。
 この場合で相続財産が1億2000万円だとすると、遺留分は妻が3000万円、子供がそれぞれ1000万円となるわけだね。
 そうですね。
 そのため、仮に株式の価値が8000万円だとして、それを遺言で後継者である子供の1人に相続させ、残りの現金4000万円を妻に2000万円、他の2人の子供に1000万円ずつ相続させたとすると、妻の遺留分を侵害してしまうことになります。
 なるほど、遺留分が3000万円であるのに、2000万円しかもらえなかったから、差額の1000万円が侵害されたことになるんだね。
 遺留分を侵害された妻は、後継者である相続人に、遺留分減殺請求権を行使して、1000万円の限度で財産を取り戻すことができます。
 自分名義の預金など会社の株式以外にたくさん財産があれば、後継者以外の相続人の遺留分を侵害しないようにできるのだろうけど…。
 中小企業だと、経営者が個人の資産を会社経営に注ぎ込むことが多いから、なかなか難しいだろうね。
 なんとか遺留分の制約を受けないようにして、後継者に株式を移転する方法はないものかな?
 実は、生前であれば、中小企業に限り、経営者の相続人全員の合意に基づいて、後継者が取得する会社の議決権を有する株式を、遺留分の算定基礎財産から除外することができるようになりました(「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」)。
 ただ、中小企業に該当するか否か、細かい規定もありますので、詳細については、遺言書を作成する際に、ご相談ください。