中部経済新聞2013年2月掲載 
【聞之助ダイアリー】認知症高齢者の成年後見人
 「いつも、ありがとうね。支店長さんによろしくね。」
 おばあさんの笑顔に見送られながら、私は認知症高齢者のグループホームをあとにする。
 私は、このおばあさんの成年後見人となっている。成年後見人とは、認知症、知的障がい、精神障がいなど、判断能力の不十分な方を保護するため、裁判所から選任され本人のために法律行為や財産管理の事務を行う者をいう。
 おばあさんは、私が財産の管理を行っていると説明を受けているので「銀行の担当者」だと思っているのである。
 私は、おばあさんと話をするために毎月施設を訪問し、施設の運動会には一緒に参加している。
 その中でも,最近力を入れているのが「体験型模擬裁判」です。
 成年後見人は家族の者が選任されることもあるが、財産管理や遺産分割が必要な場合や、何らかの事情がある場合には弁護士が選任される。
 このおばあさんの場合は、家族がいなかったため、私が選任されることになったものである。
 最近、高齢者を狙った悪徳商法が横行している。振り込め詐欺のほか、必要のないリフォームを繰り返して高額な請求を行うリフォーム詐欺、高額な布団の次々販売、嘘をついて価値のない社債を売りつける社債詐欺。判断能力が不十分となった高齢者は、悪徳商法のターゲットとされてしまう。そして、いったんターゲットにされると、何度も何度も、お金がある限り詐欺師たちはやってくる。
 だからこそ、家族の見守りが必要となるのである。ただ、核家族化が進み、一人暮らしのお年寄りが増えた現在では、成年後見人のような第三者が、家族の代わりに見守っていく必要がある。
 私は、おじいさん子だったためか、おばあさんと話をしていると、時々、仕事であることを忘れてしまう。施設の人の話では、このおばあさんも、唯一の訪問者である「銀行の担当者」を待ち望んでいるとのことである。
 そんな喜びを励みに、私は今月も、おばあさんを訪問するのである。
 (H・M)

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