中部経済新聞2012年12月掲載
会社の民事再生とは(2)

前回は、再生計画の認可を中心に、民事再生における注意点について説明しました。 今回は、民事再生の申立て後、円滑に事業を継続していくために、経営者が注意すべき点をみていきます。

 資金繰り

民事再生の申立てをすると、弁済禁止の保全処分が出され、従前の債務の弁済が棚上げとなるので、資金繰りは楽になると思われるかも知れません。

しかし、民事再生の申立て後は、会社の信用不安が表面化し、会社は破綻先と認定されます。手形割引や新規融資が困難になるため、売掛金や貸付金の回収等により、自力で資金繰りをしなければなりません。

また、仕入れや発注では、現金取引を求められることが多くなります。申立て後の資金繰りは、民事再生による影響も考慮して検討する必要があります。

民事再生の申立てにあたっては、できる限りの資金をプールしておくことが、会社再建を成功させるために重要です(資金のプールには、貸金との相殺を避けるため、借入のない金融機関の普通預金等を利用します。)。

なお、民事再生の申立てにおいても、月別過去1年分の資金繰り表及び申立て後6ヶ月間の資金繰り表の提出が必要とされています。

 取引先対応

民事再生の申立ては、経営危機を外部に表明することを意味します。

そのため「今後も従来通り製品の提供を受けられるのか。」といった不安から、得意先に取引を打ち切られるおそれがあります。経営者は、申立て後も従来通りに営業できる体制を整え、得意先にアピールする等、取引を切られないための努力する必要があります。

民事再生の申立ては、仕入先との取引にも重大な影響を与えます。

仕入先が会社に対して有する売掛金も、再生手続開始前のものは再生債権となります。再生債権は、原則として再生計画の定めによらなければ弁済できません。

仕入先とすれば、売掛金の入金予定が狂う事になりますので、資金繰りの悪化による連鎖倒産もあり得ます。

そのため、民事再生法では、一定の場合、再生計画によらずに再生債権の弁済を行うことが認められています。

例えば、会社の主要な仕入先に連鎖倒産のおそれがある場合、裁判所の許可を得て、再生計画認可前に、再生債権の全部又は一部の弁済をすることが出来ます(※主要な仕入先が中小企業者(中小企業基本法2条)の場合に限ります。)。

 一般優先債権

再生手続開始前に生じた債権でも、従業員の給料や税金等、一般優先債権とされるものもあります。一般優先債権は、再生計画による変更の対象とはならず、従来通りの期日・金額での支払いをしなければなりません。

未納付の税金や社会保険料、未払いの給与や退職金を支払っても、資金繰りに支障を来さないかを検討します。

特に税金等の滞納で公的機関から差押え(滞納処分)を受けている場合、民事再生では、滞納処分を中止又は取り消す方法がありません。

滞納額が多い場合は、税務署や社会保険庁等と交渉し、分割納付や滞納処分による財産換価の猶予といった、税法上の手続の発動を求めることになります。

 担保権者対策

民事再生では、担保権者は手続外で担保権(別除権)を実行できます。

しかし、工場等の重要な事業資産に設定された担保権が実行されれば、会社の再建は不可能です。

事業の継続に不可欠な財産に担保権が設定されている場合、担保権の行使を避けるための対応(別除権協定、担保権消滅請求制度)を取る必要があります。

別除権協定とは、担保権者との個別交渉により、担保物件の評価額を分割して弁済することで、担保権の行使を猶予してもらう旨の合意です。

事業継続に不可欠な物件は、再生計画を履行する上でも必要な物件です。別除権協定を締結して担保権の実行を止められるか否かは、再生計画が遂行される見込みの判断にも大きく影響します。

そのため、再生計画案を作成するまでに、別除権協定を締結することが重要です。

担保権者の協力が得られない場合でも、担保権消滅請求制度(裁判所の許可を得て、担保物件の評価額を裁判所に納付し担保権を消滅させる制度)を利用すれば担保権を消滅させることはできます。

ただ、担保権消滅請求制度では、担保物件の評価額を一括で納付する必要があり、資金の準備が問題です。担保権者との交渉で別除権協定を締結することが、民事再生を成功させるために重要といえます。

 まとめ

以上に述べたように、民事再生による事業の自主再建を成功させるためには、債権者・担保権者・取引先・従業員等に協力を求める、申立て後の資金繰り準備等、相当の準備と各方面との粘り強い交渉が必要です。

準備が遅すぎて申立後の資金繰りの目処が立たずに破産しか選択できなかった、民事再生の申立ては行ったが、得意先や従業員を引き留められず最終的な結論は破産となった、ということのないよう、弁護士への早めのご相談をお勧めします。