中部経済新聞2012年3月掲載
【復活!言わせてチョ】 暴排条例にモノ申す

平成四年に公開された「ミンボーの女」という映画をご記憶だろうか。伊丹十三監督が宮本信子さんを主演として制作された映画である。この「ミンボー」とは、民事介入暴力を略した「民暴」をカタカナ表記した言葉である。

弁護士会にも民事介入暴力対策委員会があり、民事のトラブルに介入する暴力団の不当な活動に対抗すべく頑張っている。私も、この民暴委員会の委員として活動していた。暴力団事務所の明け渡しや不当な方法による債権回収などに対抗すべく、時には怖い思いもしながら活動した。

当時、民暴委員の先輩弁護士から言われた言葉で忘れられない言葉がある。

「暴力団員だからいけないのではない。暴力団員も人であり、その人権は守られるべきだ。ただ、その行為が違法であった場合に我々は戦うのだ。」

その指導を受けた身として、先月の本欄で説明した、いわゆる暴排条例は、やや行き過ぎの感が否めない。

まず定義である。
条例によれば「暴力団員等」とは、暴力団員又は暴力団員でなくなった日から五年を経過しない者をいう。更生して暴力団を脱退した人も、五年間は暴力団員と同じ扱いを受けることとなる。

次に、企業を含む事業者に対して、契約に当たり「暴力団の運営に資することとなるものでないことを確認」せよと言うのである。平成三年に暴対法が成立して以降、指定暴力団だと法の規制を受けるので、実態は暴力団が経営していても形式的には企業の体裁を装うなど、暴力団関係者か否かが分かり辛いケースが増えてきた。にも拘わらず、取引先の素性を確認できるのか疑問なしとしない。素性確認をすることにより、新規取引先が気分を害した結果取引がご破算になって困るのは企業である。

さらに上記二つを掛け合わせると、更生して暴力団から脱退して五年を経過しない者は銀行の普通預金口座さえ開設できない危険が発生する。子どものために足を洗おうとしていても、修学旅行の積立金を口座引落にできず、子どもが学校へ現金を持って行かねばならない。せめて生活や育児に必要な普通預金口座は開設できて良いはずである。

暴力団による違法・不当な行為を容認する気は毛頭ない。断固戦う。しかし、運用如何により取引が萎縮したり、元暴力団員の更生の道を閉ざしたりする危険のある本条例には、やはり違和感を覚える。

(N.U)