中部経済新聞2012年 3月掲載
面白い恋人事件
「白い恋人」のメーカーの石屋製菓が「面白い恋人」という商品について吉本興業を訴えたという事件、文字通り面白そうな事件だね。
あの事件は我々弁護士から見ても興味深い事件ですね。
商標権侵害と不正競争防止法違反ということで訴えた、と新聞に書いてあったけど、どんな喧嘩なのかい。
商標権というのはいわゆるブランドのことです。社長の会社も御菓子メーカーだからあれこれ商品名を登録していますよね。商品ごとに分類されていますが、一旦特許庁に登録が認められると第三者は同じ商品についてはその商品名と似た名前は使えなくなるのです。また、登録されていなくても、他人の商品の特徴となる部分について似た物を製造販売して消費者に誤認混同を生じさせることは、不正競争に該当するとして不正競争防止法で禁止されています。報道によれば、今回の事件では、白い恋人側は、商品名については商標法に基づいて、またパッケージのデザインについては不正競争防止法により、似た製品の販売の差し止めを求めて訴えたようですね。
新聞記事によると、吉本興業側は「面白い恋人」の商標登録の申請を特許庁にしたが、「白い恋人」と似ているからということで拒絶になったと書いてあった。だとすれば吉本興業が分が悪そうだね。
そう簡単じゃないですね。小僧寿し事件とよばれる有名な事件で最高裁は、商標の類否は外観、観念(意味)、呼称(呼び方)が似ているかどうかで判断されるのですが、そのうちで類似する点があるとしても、「他の点で著しく相違したり、取引の実状等によって何ら商品の出所を誤認混同するおそれが認められないものについては、これを類似商標と解することはできない」と言っています。今回の事件でも、現実に消費者が間違えないという具体的な事情があると判断されれば、商標権侵害には当たらないとされる可能性もあるのです。この理屈は不正競争防止法についても同じで、一見似ているようでも、消費者が間違える可能性が低ければ、請求が認められない可能性もあるのです。
確かに吉本興業は有名だし、私も間違えないかもしれない。なら、石屋製菓は負けと言うことかな。
そうとも言えません。ポルノランドディズニー事件というのがあって、誰もあのディズニーがポルノショップを経営していると間違えることは無いと思われるけど、結果的にブランドイメージが損なわれるということで差し止めが認められた判例もあるのです。
理屈と膏薬はどこにでもくっつくというけど、弁護士さんは色々と屁理屈を考えるもんだね。
「屁」だけは余分ですよ。ただ、色々な争点があるので、私たち専門家にとっても興味深い事件なのです。
特許権だとか知的財産の事件(知財事件)というと弁理士さんの世界だと思っていたけど、弁護士さんも扱うのだね。
商標権の登録などは弁理士さんの独壇場でしょうが、侵害訴訟や不正競争防止法違反事件はもともと弁護士の扱う世界です。最近は弁理士さんも弁護士と共同でできるようになりましたが。
ちなみに、今回の裁判は札幌でやっているようだけど、特許権などの裁判は東京か大阪でしかできなかったのではないのかな。
その通りです。ただ、今回は商標権侵害と不正競争防止法違反の事件なので札幌で提訴できたのです。特許権に基づく請求だと、石屋製菓は東京まで出向かなきゃいけないところでした。
それもひどい話だね。しかし、こうした事件は費用もかかるのだろうね。有名企業同士だし、話し合いでの解決はできなかったのかな。
紛争解決センターの話は前にしましたが、こうした知財事件についても同じような制度はありますよ。日本知的財産仲裁センターという名前です。知財事件に詳しい弁護士と弁理士が二人で間に入り、基本的には話し合いで紛争の解決を図ろうというものです。非公開で紛争の解決が図れますし、訴訟と比べると費用も安く済むケースが多いと思います。もしも社長の会社で知財事件が起きたら、使ってみられると良いですよ。もっとも、類似品が出てくるのは、良く売れていて、しかも利益が見込める商品についてですからね。売れない商品の類似品を作る人はいませんが・・・。
それが一番難しい問題だね。我が社の製品も偽物がでるくらい売れたら先生の顧問料もアップできるんだけど。
頑張ってくださいね。期待してますから。

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