中部経済新聞2011年12月掲載
弁護士のプロボノ活動
景気が悪くて儲からないといつも言っている割に、電話しても事務所にいないことが多いねぇ。
 ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。いろいろとプロボノ活動もしないといけないので。
その「プロボノ活動」っていうのは何だい?
プロボノとは各分野の専門家が、職業上持っている知識・スキルや経験を活かして社会貢献するボランティア活動全般を意味します。弁護士も法律分野の専門家として無料法律相談やその他のボランティア活動をしているのです。
具体的にはどんなことをしているの?
そうですね。私の活動で多いのは法廷傍聴案内ですね。
それは何?
法廷は公開が原則とされていて、誰でも傍聴することが可能です。ただ、専門用語が使われたりするので、一般の方が何の知識もなしに突然見ても分かりづらいかも知れません。そこで、私たちが同行させてもらって、法廷終了後に解説したり、質問を受け付けたりする制度です。1回同行すると2時間くらいかかりますね。
それでいくらもらえるんだい?
ボランティアですから、報酬はありません。
そんなことをしていたら儲からないじゃないか。
それはそうですが、司法制度を皆さんに理解いただくことも、司法の一翼を担う弁護士の職務ですから。
そんなものかなぁ。他にはどんなことをしているの?
そうですね。以前、社長の息子さんをお誘いしたサマースクールがありましたよね。あれもプロボノ活動です。
そういえば、子どもの参加費は無料だったなぁ。
そうですよね。中高生を対象に法廷傍聴案内や体験講座、刑事模擬裁判などを行っていますが、弁護士は全員無報酬です。
春と秋に行われている記念行事はどうなんだい?
あれももちろん無報酬です。時宜に応じたテーマを決めるところから始まって、講師候補を選び、出演交渉もします。当日の会場準備や運営も行います。
そうすると、弁護士のプロボノ活動ってイベント系の活動ばかりなの?
それだけではありません。人権救済事件や各種の無料電話相談など本業と密接に関わるプロボノ活動もあります。
人権救済事件っていうのは何?
人権が侵害されたとして弁護士会に対して申立があった事件について、調査・検討し、必要があれば弁護士会として警告・勧告・要望などを行います。刑務所にいる人からの申立も少なくないので、調査に行くのも楽ではありません。
電話相談は仕事を見つけるためではないの?
個々の弁護士にとってそういう側面がないわけではありませんが、弁護士会としては、犯罪の被害に遭われた方、DVの被害に苦しむ方、いじめや体罰・虐待に悩む子どもさんなどから無料で電話相談を受けて、少しでも人権が守られるよう努力しているのです。今年発生した東日本大震災に対応して、被災者への無料電話相談も行ってきました。
時々新聞で見る再審無罪の事件はどうなんだい?
あれは仕事内容としては弁護士としての本業です。しかし、再審を求める人は有罪判決を受けて刑務所に入っておられる人なので当然収入がありません。結果的に手弁当で行うことになりますので、プロボノ活動といえるでしょうね。
この前の夜の打合せの時も、直前に炊き出しをしてきたと言ってたね。
はい。あのときは不景気のあおりを受けて野宿生活を送らざるを得なくなった人たちに炊き出しを行い、無料で法律相談を受けていました。数日後には、生活保護の申請に同行してきました。
そんなことまでしてるのかい。
大変ですが、社会のすべての人の人権が守られるように活動するのが弁護士の職務です。ただ、個々の弁護士の力では、残念ながら活動できる範囲も限られてしまいます。弁護士会という組織の力も利用して、いろいろ活動をしているのです。
弁護士という職業は、お金儲けの上手な商売だと思っていたが・・。
もちろん私たちも生活がありますから無報酬の仕事ばかりでは困ります。しかし、弁護士法で定められた「基本的人権の擁護と社会正義の実現」という弁護士の使命だけは忘れないように活動しているつもりです。因みに、弁護士は商人ではないので、利息も商事債権で認められる年六%でなく、民法の定める年五%ですよ。
それなら少しくらい支払いを遅らせても大丈夫かな(笑)。
それは勘弁してください。私には従業員や家族の生存権を守る義務もありますから(笑)。