中部経済新聞2011年8月掲載
少年の国選付添人拡大を

 うちの女性パート社員の息子さんが警察に逮捕されてしまったそうでね。

何があったのですか。


その息子さんは高校生なんだけど,夏休みに悪い仲間と知り合ったようでね。あちこちのスーパーで,ゲームでもするような感覚で万引きをしていたそうなんだ。
それは大変ですね。
幸い,すぐに国選弁護人が選任されて,弁護士さんからアドバイスを受けることができたそうだけど。生活に余裕がない中で,弁護士に依頼するお金なんて出せないと思っていたそうで,国選弁護人が選任されて助かったって言っていたよ。
平成21年5月からは被疑者国選の対象事件が必要的弁護事件にまで拡大されて,ほとんどの事件について,被疑者国選弁護人の選任を請求できるようになりましたからね。

それで,逮捕されてからまだ間がないのに国選弁護人が選任されたわけか。どうやら,仲間連中がその息子さんに責任を押しつけようとしていたみたいでね。早いうちから弁護士さんにサポートしてもらえて良かったよ。

少年は,成人に比べて精神的に未熟な面があるため,そういった場合などに,取調官に虚偽の自白を押しつけられてしまう危険性が大きいのです。少年が取り調べにあたって十分に身を守るためには,弁護士のサポートが不可欠です。それに,被害弁償や,家庭環境,交友関係の調整などをする必要もありますからね。そういった意味でも弁護士のサポートは必要です。

なるほど。それに,逮捕なんてされたら心細いだろうしね。お母さんも,国選弁護人の弁護士さんが親身になって相談に乗ってくれて,息子も少し安心したようだって言っていたよ。この先の手続も,弁護士さんが息子についていてくれるなら大丈夫だろうってさ。
ところが,現在の制度では,この先の手続について,「国選」の弁護士によるサポートは保障されていないのです。

え,どういうこと。このまま国選弁護人がサポートしてくれるんじゃないの。

成人が起訴された場合,被疑者国選弁護人が引き続き被告人国選弁護人として弁護活動を行うことになります。しかし,少年の場合,被疑者国選弁護人が引き続き国選付添人になるとは限らず,また,弁護士である付添人が選任されないことも多いのです。


付添人というのは。

少年の場合,成人のように起訴されるのではなく,家庭裁判所に送致され,調査,審判などの手続が行われることになります。こういった手続に際して,少年を援助するのが付添人です。


付添人が選任されないなんてことがあるのかい。国選弁護人はほとんどの事件で選任されるんだから,国選付添人もそうなんだろう。


いいえ。現在の国選付添人制度では,対象事件が極めて限定されています。具体的には,故意の行為によって被害者を死亡させた事件か,死刑または無期もしくは短期2年以上の懲役または禁固にあたる事件で,家庭裁判所が必要と認めた事件に限って国選付添人が選任されます。

表
重大な事件じゃないと国選付添人は選任されないってのか。

そのため,被疑者段階では弁護士の援助を受けていたのに,家庭裁判所に送致されたとたん,弁護士の援助を受けられなくなってしまう,「置き去り」の少年が生まれてしまうのです。


それはおかしいんじゃないの。大人は引き続き弁護士の援助を受けられるのに,子どもはだめだなんて。

おっしゃるとおりです。少年が弁護士の援助を受ける必要性は成人に比べて低いなどということはありませんからね。


しかし,そうなると,件の息子さんも「置き去り」になってしまうよ。弁護士に依頼をするお金はないというし,どうしたらいいんだろうか。このままだと,責任を押しつけられてしまうことにもなりかねないじゃないか。

日弁連は,極めて貧弱な国選付添人制度を補うために,少年付添人法律援助事業を日本司法支援センター(法テラス)に委託して行っています。これを利用して,弁護士費用の援助を受けてはどうでしょう。


そんな制度があるのか。それは教えてやらないとな。

しかし,弁護士会の財政にも限りがあります。やはり,国費によって安定的に運営される制度が必要です。国選付添人制度の対象事件を拡大し,「全面的国選付添人制度」を実現すべきです。



なるほど。子どもたちが健全に成長できる社会を作ることは私たちの務めだよね。