中部経済新聞2011年5月掲載
クーリングオフ
新年度も始まったことだし，何か新しいことでも始めようと思ってね。英会話教室で，１年間，全３６回で３０万円のコースに申し込んだんだ。そうしたら妻に怒られてねえ。困ったことになってしまった。
奥様は何とおっしゃっているんですか。
妻は，英会話教室なんて，どうせろくに通わないんだから，キャンセルしてこいって言うんだ。私の都合にあわせて自由に予約が取れるコースだから大丈夫，ちゃんと通うって説得したんだけど，キャンセルしてこいの一点張りでさ。今朝，とうとうけんかになってしまって。このままだと，家に入れてもらえそうにないんだよ。
それはまた，大変ですね。
しかし，いったん契約してしまったわけだから，簡単にキャンセルなんかできないだろう。それで，途方に暮れているんだ。
諦めてしまうのは早計ですよ。社長が契約をしたのは，いつのことですか。
ええと，先週の月曜日だけど。
「特定商取引に関する法律」は，法の定める期間，金額を超えるエステティックサロン，語学教室，家庭教師，学習塾，パソコン教室，結婚相手紹介サービスについて，一定期間内，無条件で申込みの撤回または契約の解除を行うことができる制度，クーリングオフを認めています。契約期間が２か月を超え，なおかつ料金が５万円を超える語学教室については，契約内容を記載した書面を受け取った日から，その日を含めて８日以内であれば，クーリングオフをすることができますよ。
　そのクーリングオフをするにはどうすればいいの。
クーリングオフは書面でする必要があります。期間内にクーリングオフをしたことを証明するために，内容証明郵便を送るといいでしょう。
しかし，８日以内ということだと，今日が期限じゃないか。今から書面を送っても，期間内には届かないだろう。
クーリングオフの効力は，書面を発したときに生じますから，期間内に書面を発送すればよいのです。
　なるほど。それじゃあ，早速書面を発送したいんだけど，作ってもらえるかい。ところで，教材も一緒に買っちゃったんだけど，これもクーリングオフできるのかな。教材だけあっても仕方がないんだけど。
サービスの提供に際して購入する必要のある関連商品として購入したのであれば，クーリングオフすることができますよ。
やれやれ，これで妻の怒りも静まりそうだ。
しかし，奥様も手厳しいですね。
いや，妻がああ言うのも仕方ない。実は，今年の初めにはパソコンをマスターしようと思ってね。パソコン教室で，同じようなコースに通い始めたんだけど，すぐに挫折してしまったんだ。思っていたより難しくて，もうやめたいんだけどなあ。契約したのは数か月前だから，さっきの話だと，クーリングオフはできないんだよね。
契約内容を記載した書面を受け取っていない場合や，書面が法律の定める記載事項を欠いていたり，不備がある場合には，クーリングオフの期間が始まりません。こういった場合，いつまででもクーリングオフをすることができます。
契約書をチェックしてみたほうがいいってことか。
また，「特定商取引に関する法律」は，さきほどお話しした６つのサービスについて，クーリングオフのほかに中途解約権を認めています。契約期間が２か月を超え，なおかつ料金が５万円を超えるパソコン教室については，クーリングオフができない場合であっても，理由を問わず自由に中途解約ができますよ。契約で中途解約はできないと定められていたとしても，そのような特約は無効です
中途解約をしたとして，支払った代金は返してもらえるんだろうか。途中でやめるなんて考えもしなかったから，最初に全額支払ったんだよね。
クーリングオフの場合と違って，すでに提供を受けたサービスの対価分について返還を求めることはできませんが，まだ提供を受けていないサービスの対価分については，返還を求めることができます。契約で中途解約の場合，一切返金には応じないなどと定められていたとしても，そのような特約は無効です。
中途解約をすると，高額の違約金を請求されたりして，結局，代金を返してもらえないなんてことはないのかな。
「特定商取引に関する法律」は，中途解約の場合に事業者が請求できる損害賠償額等に上限を設けています。契約に違約金の定めがある場合でも，事業者は，この上限を超える金額の支払を請求することはできません。法が定める上限は，たとえば，パソコン教室の場合だと，サービス提供前の中途解約なら１万５０００円に遅延損害金を加えた金額，サービス提供後の中途解約なら５万円または提供を受けていないサービスの対価分の２０パーセントに相当する金額のいずれか低い金額に遅延損害金を加えた金額です。損害賠償額等の上限は，サービスの種類ごとに違いますので，詳細は弁護士にご相談ください。
それなら，全く代金を返してもらえないということはなさそうだ。中途解約してお金が戻ってきたら，妻を旅行にでも誘って，機嫌を直してもらうかな。