中部経済新聞2011年1月掲載
検察審査会
今年も各地で荒れた成人式があったみたいだね。
荒れた成人式というのは,すっかり一月の定番ニュースになってしまいましたね
新成人にも,もう少し自覚をもって行儀よくしてもらいたいものだよ。まあ,選良たる国会議員でさえバタバタと行儀悪くしているご時勢だし,新成人だけ行儀よくしろ,なんていうのは無理な話なのかもねえ。
これは手厳しい。
ところで,国会でのバタバタというと,昨年来の小沢一郎衆議院議員をめぐる騒動が思い浮かぶんだけど,報道を聞いても耳慣れない言葉が多くて,よく分からないんだよね。検察審査会とか,強制起訴とか。よかったら説明してくれないかな。
 

社長は,犯罪の疑いをかけられた被疑者について,刑事裁判を請求する(起訴する)役割を担っているのはだれか,ご存知ですか。
検察官だろう。
そのとおり。日本では,原則として,検察官が,被疑者を起訴するかしないかを決定する権限を独占しています。検察審査会は,その検察官の不起訴処分,つまり,被疑者を起訴しないという判断の当否を審査するところです。
疑わしいのに起訴しないなんてことがあるのかい。
たとえば,十分な証拠がないときに,嫌疑不十分として不起訴になることがあります。また,被疑事実が明白であっても,検察官が,被疑者の性格,年齢,境遇,犯罪の軽重などを考慮して,起訴猶予処分として起訴しないこともあります。検察審査会は,被害者などの審査の申立てに応じて審査会議を行い,検察官のこういった判断が恣意的に行われていないかどうかを審査するわけです。
専門家の判断の審査か,難しそうだねえ。となると,検察審査会のメンバーは,やっぱり,学者の先生や弁護士さんなのかな。
いえいえ,検察審査会は,有権者の中から,くじで選ばれた11名で構成されています。弁護士などの司法関係者は検察審査員にはなれないのですよ。
素人が難しい審査をしてしまっても大丈夫なのかい。
検察審査会制度は,司法に国民の常識を反映させるという目的を持った制度ですから,むしろ,一般の国民が審査をする必要があるのです。それに,法律上の問題点などに関しては,弁護士である審査補助員から助言を受けることができますよ。
司法に国民の常識を反映させるか。裁判員裁判についても同じようなことが言われているね。それで,審査会議ではどういった結論を出すのかな。
通常,審査を終えた場合には,不起訴相当,不起訴不当,起訴相当のいずれかの議決が行われます。不起訴相当というのは,検察官の不起訴処分は納得できるという議決です。一方,不起訴不当というのは,不起訴処分は納得できないので,検察官はさらに捜査をして起訴か不起訴かを決めるべきだという議決,起訴相当というのは,検察官は事件を起訴すべきだという議決です。
そういった結論はどうやって決めるんだい。
検察審査員11名が多数決で決することになります。
 議決があると,その後はどうなるの。
不起訴相当の議決があった場合,手続は終了です。これに対して,不起訴不当,起訴相当の議決があった場合には,検察官は,議決を参考にして起訴するかどうかを検討しなければいけません。もちろん,検討の結果,再び不起訴処分となることもあります。
 不起訴不当の議決と起訴相当の議決には何か違いがあるのかい。
両者の違いは,検察官が,検討後,再び不起訴とした場合に生じます。起訴相当の議決を行った場合に,検察官から,再び不起訴とした旨の通知を受けたときは,検察審査会は,再度審査を行うことになります。そして,そこでも起訴を相当と認める場合,起訴をすべき旨の議決,起訴議決を行います。
起訴議決があるとどうなるんだろう。
この場合,裁判所が指定した指定弁護士が,被疑者を起訴しなければなりません。

検察官が不起訴にしても起訴してしまうので,強制起訴と言っているわけか。
起訴議決の制度は,検察審査会法の改正によってあらたに導入された制度です。以前は,検察審査会の議決に拘束力がなかったため,起訴相当の議決があっても,結局,不起訴処分となることも多かったのです。これまで,起訴議決が行われた事件には,明石花火大会歩道橋事故,JR福知山線脱線事故などがありますね。

有権者からくじで選ばれるなら,私が選ばれる可能性もあるのか。しかし,起訴することまで決めるとなると,責任重大だね。
検察審査会制度も,よりよく発展させていきたいものですね。