中部経済新聞2010年12月掲載
現代日本の子どもの貧困
先日、同じ私立高校に通う、うちの息子の小学校時代からの幼なじみが、突然自主退学したらしいんだよ。どうやら家庭の経済的事情で、授業料の滞納が続いたみたいだ。その子は、最近、病気になっても病院に行けず、こじらせて学校を休みがちだったようだ。これも親御さんが派遣労働者で、国民健康保険料を滞納して無保険状態だったことが原因らしい。私も小さい頃から知っている子だから、胸が痛くてね。
そうでしたか。昨今問題視されているこの国の「貧困」問題が子どもの世界にも拡大しているということを実感させられるような出来事ですね。高校の授業料については、本年度から、公立高校は無償化、私立高校も一部就学支援金が支給されるようになりましたが、足りない分は自己負担ですから、それが払えないご家庭も当然あるのでしょう。また、近年増加の一途をたどる児童虐待事例も、その原因の上位に、「経済的困難」があげられています(東京都「児童虐待の実態U」)。日本の「貧困」拡大が子どもを取り巻く環境を非常に厳しいものにしていることは間違いないでしょう。


●日本の子どもの貧困の実態
OECD(経済協力開発機構)によると、日本の子どもの相対的貧困率は、韓国やスロバキアといった国よりも高いそうです。子どもの相対的貧困率とはその国の平均所得の50%以下の所得しかない世帯に属する子どもの比率を言いますが、日本の場合、そうした貧困層に入る世帯の具体的な所得は、2人世帯で月約15万円、4人世帯で月約21万円以下とのことです(厚生労働省2004年『国民生活基礎調査』)。特徴的なのは、OECD加盟先進18か国のなかで日本は唯一社会保障等による所得の再分配後に子どもの貧困率が悪化するという、逆転現象が起きている点です。これは、子どもを持つ親世帯が、政府から受ける社会保障の額よりも、支払う税金の額が多いケースがあるということを意味しています。政府も、昨年秋、我が国の17歳以下の子どものうち7人に1人が貧困状態にあり、特に一人親家庭の子どもは半数以上が貧困状態にあると発表し、我が国の子どもの貧困問題が深刻な状況にあることを認めました。
確かにこの国の物価でその所得では、相当厳しいな。でも、それって、景気の悪化だけが原因なのかな。
それについては、主に大企業が、利潤追求のために人件費を削減し、労働者の非正規雇用化を進めたため、ワーキングプアといわれる低賃金労働者が大量に生み出されたことが根本的な要因であると分析されています。また構造改革路線によって、富の偏在を防止・是正すべき社会保障が、個人責任の名の下に大きく削減されたことも、重要な要因と言えるでしょう。
でも、企業が利潤を追求すること自体は責められないよ。
確かにそうですね。しかし、その手段として最も手っ取り早い、人件費削減、特に労働者の待遇後退や解雇といった方法を安易に選択することは、好ましいこととは言えません。これは社会に貧困層を増大させて、消費を冷え込ませ、景気を一層悪化させる、という悪循環を生みます。結局長い目で見れば、企業の利益にはならないといえるでしょう。ですから、正規雇用をできるだけ増やし、労働者の待遇を改善して相対的貧困率を是正することこそが、実は最も効果的で持続可能な経済対策といえるのではないでしょうか。
理屈としては分かるけど、我々みたいな中小企業は、コストのかかる正規雇用を増やすことは簡単にはできないよ。むしろ今後の景気動向次第では、賃金削減や人員削減も考えなくてはならない。


●労働法制の問題
しかし、法律上は、パートや派遣社員といった非正規雇用の従業員であっても、一定の要件を充たすと、正規雇用と同様の待遇にしたり正規雇用への転換を図らなくてならない場合があります。また、賃金についても、国が最低賃金(本年10月24日発効の愛知県の地域別最低賃金は745円)を定めていて、使用者はそれ以上の賃金を支払わなければなりません。地域別最低賃金を下回る賃金しか支払わなかった使用者には罰則(50万円以下の罰金)が定められています。その他、労働条件の不利益な変更や人員削減をする場合にも、法律上厳格な要件が要求されています。これらのことが問題となる時は、必ず早めにご相談下さい。

分かったよ。でも自助努力では本当に限界があるよ。



●雇用維持・促進対策
そうですよね。そこで、政府は、事業主の雇用維持・促進を資金的に支援する政策を打ち出しています。例えば、短時間労働者の待遇改善や正社員転換制度を実施する事業主には奨励金などが給付されます。また仮に雇用調整が必要になった場合でも、休業や出向という形で解雇を回避した事業主には、賃金等の一部を国が負担する制度を実施しています。詳細は厚生労働省のホームページをチェックしてみて下さい。

そんな制度があるのか。だったら、まずは母子家庭でがんばってるうちのパートさんの正社員転換を検討してみようかな。

さすが社長。是非ご検討下さい。