中部経済新聞2010年11月掲載
【聞之助ダイアリー】
「大阪地検特捜部 フロッピーディスク改竄を巡る一連の不祥事」

 大阪地検特捜部で起きたフロッピーディスクの改竄を巡る一連の不祥事では,3名の検事(当時)が起訴された。捜査機関が証拠物を改竄する,冤罪を招く最たるもので,世間に大きな衝撃を与えた。

 その一人,前田元検事については,朝鮮総連の土地売買を巡る詐欺事件において,利益誘導など自白を強要するような取調べをしたにも拘わらず,公判ではそれを否定する証言をしたということで,偽証罪にて告発された。

 前田元検事は,被疑者から自白を得るのが「うまい」と評判だったそうだが,自白を強要するのがうまかったのだろうか。今後,様々な方面から検証されていくことであろう。

 ただ,思い出して欲しい。

 「足利事件」,「氷見事件」など冤罪が明らかになった事件では,無実の人が,捜査機関の不適切な取調べによって,「自白」を強要され,それが調書として「証拠化」され,冤罪を招いた大きな原因となった。

 冤罪を招く危険性という意味では,冒頭のフロッピーディスクを改竄することと,この「自白」を強要し虚偽の自白調書を作成することに,何ら違いはないのである。

 むしろ,虚偽の自白を録取した取調官は,その自白が「正しい」と考えており,故意に証拠を改竄する場合よりも,事が発覚しにくい分,質が悪い。

 密室での取調べでは,取調官がどのような取調べをしたか,客観的に明らかにはならない。この偽証罪の件でも,前田元検事は「そんな取調べはしていない」と否定しているようだが,結局,取調官がどのような取調べをしたのかは,録音・録画等(可視化)されていない限り,被疑者と取調官との間で「言った,言わない」の水掛け論になってしまうのだ。

 「足利事件」等のように冤罪が発覚したのは,氷山の一角に過ぎないように思う。自白の強要をなくすには,取調べを可視化するしかない。

 これまで弁護士会は,取調べの可視化を求め,様々な活動をしてきた(愛知県弁護士会ホームページ「弁護士会ライブラリー」内にある中部経済新聞掲載記事をご参照)。

 一方,検察庁等捜査機関側は,可視化すると,被疑者との信頼関係が構築できず,取調べが難しくなるなどと言って大反対してきた。

 一連の不祥事からすると,捜査機関の言う「信頼関係」というのは一体どのようなものなのだろうか…。

 元特捜副部長は,最高検による取調べにおいて,可視化を要求したらしい。

 検察庁の象徴であった者が,可視化の必要性を今になって実感しているというのも,皮肉なものである。
(Y・M)