中部経済新聞2010年10月掲載 
情報を守る手段について
最近、知り合いの社長の会社で、退職した元社員が新製品の図面のコピーを持ち出す騒ぎがあったらしいよ。うちの会社ではそんなことが起こらないようにしたいのだけど、何か出来ることはあるんだろうか。


●情報を守る手段
手段としてはいくつか考えられます。一つは、特許権や著作権等の知的財産権としての保護を受けるという方法です。次に、不正競争防止法上の「営業秘密」として管理する方法です。それから、契約によって情報を保護することも考えられますね。


●知的財産権としての保護
まずは、知的財産権としての保護についてですが、例えば、技術的情報について特許を取る方法ですね。特許を取れば、その技術について独占的に実施することができます。

特許を取っておけば勝手に使われないんだね。

はい。ただし、特許の出願をした場合、特許が付与されるか否かにかかわらず、その技術は公開されてしまいます。それに、日本でのみ出願した場合、特許権の効力は日本国内しか及びませんし、出願後二十年経過すると特許権は消滅します。

社長:技術が独占できる範囲は限られているわけだね。

弁護士:また、技術的な情報ではない顧客名簿等については、特許を取ることはできません。

社長:色々と制約があるもんだね。

それから、図面やプログラムなどについては著作権法上の保護が受けられる可能性もあります。

著作権というと、小説や音楽の印象が強いけど。

そうですね。ですが、それ以外のものについても、思想・感情を創作的に表現したものであれば、著作物として保護される可能性があります。


そうなんだ。今後は著作権についても意識しないといけないね。著作権の場合も出願が必要なのかい。



特に出願等しなくても保護が受けられますよ。ちなみに、特許を取った技術や著作物が無断で使用された場合には、使用の差止めや損害賠償を請求することになります。



●不正競争防止法による保護
次に、情報が不正競争防止法上の「営業秘密」に当たる場合には、同法による保護を受けることができます。

へぇ。どういったものが「営業秘密」になるんだい。

営業秘密にあたるのは、@秘密管理性、A有用性、B非公知性を満たしている場合ですね。まず、@についてですが、営業秘密と言えるためには、情報が秘密として管理されている必要があります。

どうすれば秘密として管理されていることになるのかね。

例えば、情報にアクセスできる人を一部の者に限る、情報を鍵やパスワードで管理するといった方法が考えられますね。

うちの顧客情報には「秘」の印が押してあるけど。

通常それだけでは足らないでしょうね。裁判例では、秘密であることの認識可能性だけではなく、秘密へのアクセスの制限等秘密保持のための管理がなされていることが必要とされています。情報が管理されている実態が重要なのです。

なるほど。次の有用性ってのは何だい。

有用性というのは、情報が有用な営業上又は技術上の情報であることを意味します。例えば、設計図や顧客名簿、販売マニュアルなどは一般的には有用性ありといえるでしょうね。また、例えば、「ある方法ではうまくいかない」というようなネガティブな情報でも有用性は肯定されます。
じゃあ、有用性が否定されるのはどういう場合なんだろう。

例えば、有害物質の垂れ流しのような反社会的な活動についての情報は有用性が否定されます。

なるほど。じゃあ、最後の非公知性は。

情報が公然と知られていないことです。例えば、刊行物等に記載された情報は、保護されません。


不正競争防止法による保護を受けるためには、事前に申請する必要はあるのかい。

いいえ。今述べた「営業秘密」としての条件を満たしていれば、特に申請等は必要ありません。事前に情報を開示することも無いため、大きなメリットといえます。



●契約による保護
契約を結ぶっていうのはどういうこと。

情報に接する従業員や取引先との間で、情報漏洩を禁止し、漏洩したら損害を賠償してもらいますよ、というような契約を結ぶことです。


なるほど。そうすれば、退職者が情報を漏洩することも防げるね。

そうですね。ただ、退職時に従業員が契約締結に応じてくれるかという問題はあります。ですから、例えば、入社時や就業規則で一般的な秘密保持義務を定めた上で、秘密を取り扱うプロジェクトに参加する従業員に対して、改めて具体的な秘密保持契約を結ぶという方法を採ることが考えられます。
秘密保持だけじゃなく、退社時に競業を禁止する契約を結ぶことはどうだろう。


競業避止契約ですね。確かに、そうした契約も可能です。ただ、競業避止契約は、退職者が再就職する上での不利益が大きいので、競業を禁止する期間・地域を最小限に止めたり代替措置をとるなどの工夫をしておかないと、後々裁判所で契約が無効と判断される危険性があります。
代替措置ってのはどういうことかな。


例えば、退職者の負担を考慮した退職金を支給するといったことが考えられます。

仮に、競業避止契約が有効な場合、違反者に対してはどんな措置がとれるのだろう。


一般的には損害賠償や競業行為の差止めを求めることが考えられます。もっとも、差止めについては、労働者の競業避止義務違反に加えて、当該競業行為により使用者が営業上の利益を現に侵害され、またはその具体的なおそれが必要だとする裁判例もあり、注意が必要です。



●まとめ
以上の手段を情報に応じて使い分け管理していくことになります。その際には、情報の重要度に応じて管理の程度を変えていくことも大切ですね。



大変そうだ…。


我々弁護士もお手伝いしますので、できることからやっていきましょう。