中部経済新聞2010年3月掲載 
夫婦財産契約及び夫婦間契約について
タイガー・ウッズは離婚せずに済みそうな雰囲気だけど、今月はウッズも締結しているといわれている夫婦財産契約について教えてくれるんだったよね。
はい。夫婦財産契約とは、夫婦間における財産の帰属、婚姻生活から生ずる費用の分担等について、婚姻前に締結する契約のことをいいます。欧米ではよく見られるものですが、日本でも民法に規定があります。
ふーん。
夫婦財産契約が締結されていない場合の夫婦間における財産の帰属や離婚時の分与については、先月、ご説明しましたよね。夫婦間における財産は、 @夫婦の一方が婚姻前から有する財産および婚姻中自己の名で得た財産(特有財産)、A夫婦が協力して得たと考えられる財産および夫婦共同名義で購入した財産(共有財産)、B夫婦のいずれに属するか明らかでない財産(推定共有財産)に分類されるというものです。
離婚時の財産分与では、AとBを分けるというものだったね。

そうですね。しかし、夫婦財産契約を締結することで、こうした分類に従わず財産関係を定めることができるのです。
先月は、例えば遺産は特有財産と聞いたけど、それも夫婦の財産にできるの?
そうです。離婚における財産分与や、夫婦の一方が死亡した時の相続において相続財産の範囲を確定する場合などに、もめないように、予め契約にしておこうというものです。
なるほどね。では、家の中にあるどちらのものかよく分からない財産は、どうなるわけ?
そのような夫婦のいずれに属するかが明らかでない財産は、夫婦の共有に属するものと推定されることになります。ですから、自分の所有であると主張する方がそのことを証明しないと、財産分与の対象となります。
紛争を予防するというのは、大きなメリットだね。でも、実際にこの契約をしているという人はあまり聞かないよ。
そうですね。実はこの制度、明治時代からあるのですが、日本の習慣に馴染みにくいし、手続きも厳格なので、現状はあまり利用されていないんですよ。
面倒なの?
はい。まず、夫婦財産契約は、原則として、婚姻の届出前に締結する必要があります。
私はもう結婚しちゃっているからだめなんだね…。
そうですね。また、契約を夫婦の承継人(例えば夫が死亡した場合の夫の相続人)や第三者に対抗するためには、婚姻の届出までに、戸籍筆頭者となる予定の者の住所地を管轄する法務局で、夫婦揃ってその登記をしなければなりません。
そりゃ大変だ。
さらに、夫婦財産契約は、婚姻届出の後は、これを変更することができないことになっているのです。
よっぽど内容を吟味しないとだめだね。

でも、離婚協議に無駄な労力を取られるよりは、早く人生の再スタートができるという点は良いということで、最近は増加傾向にあるようですよ。 ただ、夫婦財産契約は、財産の帰属関係を定めたものにすぎないと考えられていますので、夫婦財産契約の履行によって得た「利益」は、贈与税の課税の対象になることは注意して下さい。
なるほどね。・・・・・・・・・・
また、夫婦財産契約のほかに、婚姻後に夫婦間で約束事をするのも一つの契約ですよ。
「浮気はしません」とかいうやつ?

それも一つですね。総じて、「婚姻契約」などと言われますが、法律に定められた契約ではないので、契約に盛り込む内容は、夫婦間で任意に決めることができます。また、結婚後も変更することができます。先ほどの浮気をしないというのもそうですが、家事の分担や子供の教育方法、また親との同居、記念日には必ず贈り物をするなど、契約内容は様々ですね。 夫婦財産契約のように何かあったときのために法的関係を備えるというよりも、どちらかといえば、よりよい結婚生活を営むためにお互いを多少縛るといった性質が強いのかもしれませんね。
まあ、かたちだけのものでしょう?
確かに、民法754条は、「夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる」と規定していますね。 ただ、判例は、この754条にいう「婚姻中」とは、「単に形式的に婚姻が継続していることではなく、形式的にも、実質的にもそれが継続している事をいうものと解すべきである」としています。
つまり、夫婦仲が破綻しちゃったような場合、取り消しはできないってこと?

そうです。この判例は、取り消すことのできる「婚姻中」の意味を判断したものです。従って、夫婦円満の時期に締結した贈与契約であっても、夫婦関係が破綻している場合には取り消すことができないということになります。
かたちだけの口約束ではすまないね。
まあ、書面によらない贈与なら、民法上、原則として撤回できますが、注意は必要です。
なるほどね。いざというときには、また相談にのってよ。