中部経済新聞2010年2月掲載
聞之助ダイアリー「被疑者の言い分を信じて」

 「法テラスからFAXです」午前中、裁判で提出する書面を作成していた時に事務員さんがこう言いながら書類を持ってきた。そうだ、今日は、被疑者国選弁護の担当日だった。
 FAXには、被疑者の名前・罪名(覚せい剤の自己使用罪)・勾留されている警察署が書いてあり、早速被疑者に接見に行くことにした。
 電車を乗り継ぎ、警察署につくと、もう午後も半ば過ぎていた。接見室に入ると、20代前半の男性が座っていた。
 話を聞くと、「警察から尿鑑定で覚せい剤の反応が出ていると言われた。でも、自分は絶対覚せい剤を使っていない」と言うのである。いわゆる、否認事件である。
 彼には少年時代に覚せい剤自己使用罪で少年院に行った前歴がある。また、警察が言うとおり尿鑑定で覚せい剤が検出されているならば、それを裁判で覆すことは容易ではない。
 私自身半信半疑であることを伝えた上で、本当はやっているなら素直に罪を認めた方が情状で有利であり、実刑を免れることができるかもしれないことを伝えた。
 その後はできる限り接見に行くようにし、彼の家族や雇い主などに連絡を取り、起訴いかんに関わらず、仕事や家族を失わないように手配をした。
 不起訴処分になり、彼は家族からの信頼も失わず、また解雇されずに家に戻ることができた。彼の安堵した声を聞いていたら、彼を信じて弁護活動をしてよかったと思った。
 そうこうしているうちに、勾留期間20日が満了となった。すると、彼から事務所に電話があり、釈放されたというのだ。すぐに検察庁に連絡すると、不起訴処分とのことであった。正直、起訴される可能性が高いと思っていたので、驚き、ほっとした。
 今後も疑問のある捜査活動や身体拘束の可能性がある以上、刑事弁護活動を続けていこうと思う。(A・M)