中部経済新聞2009年11月掲載
契約書を作りましょう。
納品先が売掛金を支払ってくれないんだ。すぐに金利(遅延損害金)を付けて支払うよう、督促してくれないかい。
わかりました。契約書はありますか。
うちは、今まで、発注書と納品書、請求書で済ませてきたから、契約書なんか作ったことないよ。
では、社長が請求したい売掛金の弁済期はいつになっているのですか。
取引を開始した当初から、三回の分割払いの約束になっているよ。最初の弁済期は先月末だけど、残りの二回は三ヶ月後と半年後だよ。
そうすると、まずは、弁済期の到来した一回目の分割金について直ちに支払うよう督促しましょう。
どうして、残りの二回分は督促してくれないんだよ。
残りの二回の分割金については、弁済期がまだ到来していないため直ちに支払うよう督促することはできないのです。
でも、その弁済期を待っている間に、倒産でもされたら、回収できなくなるじゃないか。何か、打つ手はないのかい。
社長のケースのように分割払いの約束をしていた場合に、一回でも支払が滞ったときには残りの分割金を直ちに支払うよう督促できるようにするためには、予め「期限の利益喪失条項」の入った契約書を作成しておくことをおすすめします。
「期限の利益喪失条項」ってどういう意味だい。
売掛金の支払期限は商品の納期より後になっていることが多く、何回かの分割払いになっていることもあるでしょう。このように、債務者(買主)に支払期限が到来するまでの猶予期間が与えられていることを「期限の利益」と言います。
期限の利益喪失条項とは、債務者(買主)が不渡りを出すなどの信用不安を起こした場合や分割金の支払を怠った場合など一定の場合に、債務者(買主)は、一種のペナルティとして、期限の利益を喪失して、直ちにその時点で負担している一切の債務を支払わなければならない、という条項です。
契約書にその条項があると、最初の分割金の支払が遅れただけで、まだ弁済期の来ていなかった残りの分割金についても、一括で直ちに支払うよう督促することができるというわけだね。
その通りです。社長のケースでは、納品先に分割弁済による期限の利益を与えたわけですが、「一回でも分割弁済を怠ったら、期限の利益を喪失して、残りの分割金を直ちに全額払う」という期限の利益喪失の約束をしていなかったために、弁済期の到来していない二回分の分割金については、直ちに支払うよう督促することができないのです。
そんなことなら、契約書を作成しておけばよかったなあ。
実は、来月から新しく取引を始める先があるから、早速、契約書を作ることにするよ。契約書にはどんなことを規定すればいいのかなあ。
売買契約を前提にご説明しましょう。まずは、売買の対象となる商品の特定、納期や納入場所、納品時の検収方法、不合格であった場合の処理方法、所有権の移転時期、代金と支払条件といった基本的な条項を規定します。
なるほど。これらは、今までの慣行を書面化すればよさそうだなあ。
それから、売った商品に、後日、不具合(瑕疵)が発見された場合の処理についても規定するとよいでしょう。売主は、いつまで商品の不具合の責任を負担しなければならないのか、不具合があった場合には、返品、修理など、どのような方法で責任を取るのか、といった問題です。
そういった場合も、予め契約書で処理を決めておけば大きなトラブルに発展することは少なそうだね。
それに、トラブルになり裁判所を利用するような事態になった場合に備えて、どこの裁判所を管轄裁判所とするかについても契約書で規定しておくことができますよ。
なるほど。
また、社長のような売主の立場に立つと、支払の確保に役立つ条項も規定したいですね。先程の期限の利益喪失条項や支払が遅滞したときの遅延損害金の金利の規定のほかに、いざというときの担保の条項を規定することもできます。
担保って、不動産の担保かい。
担保には不動産の担保以外にも色々あります。例えば、売掛金が支払われるまで商品の所有権を売主に留保しておき、万一支払が遅滞したときには当該商品の返還を求めることができるという方法(所有権留保)や、保証金を差入れてもらう方法などがあります。
契約書には、色々、規定できるんだなあ。
ただ、契約書の内容は、個々のケースに応じて色々な条項が考えられますので、具体的な話になったときに相談して下さいね。