中部経済新聞2009年10月掲載
成年後見制度について(第2回)
 先日久しぶりに母に会ってきたら、すっかり年をとっていてね。必要もない布団を買ってたりして。そろそろ一人暮らしの母に財産を管理させるのは無理かなあと不安に思ってね。
 ご心配ですね。実際、そういったご老人を狙った詐欺事件なども起こっていますし。
 そうなんだ。だから、何か起こる前に、先月話に出た成年後見について、もう少し詳しく教えてもらいたいと思ってね。
 わかりました。
 では、今回は、民法に規定されている法定後見制度についてお話ししましょう。
 先回の任意後見制度とどう違うのかい。
 任意後見制度は、まだ判断能力が低下していないうちに対応する方法ですが、法定後見制度は、実際に判断能力が低下した場合に対応する方法です。
 なるほど。
 認知症や精神障害などにより物事を判断する能力が十分とはいえない人が、契約などの法律行為を行う場合には、様々な問題が起こります。例えば、自宅の土地建物を安く売ってしまったり、必要もないのに高金利の借金をしてしまったりする場合です。民法は、このような場合に、本人の財産等の権利を守るために、本人の判断能力を補う制度として成年後見制度を設けているのです。
 でも、判断能力といっても、人によって色々だよね。
 はい。ですから、本人の判断能力がどれくらい低下しているかによって、「後見」、「保佐」、「補助」の3つの方法を定めています。必要に応じて、成年後見人、保佐人、補助人が選任されて、本人を援助することになります。
 それぞれの場合で、本人を援助する方法は違うわけ?
 違います。後見の場合は、成年後見人が、本人の財産を管理し、その財産に関する法律行為を本人に代わって行うことができますし(代理権)、本人が行った法律行為(日用品購入などを除く)を取り消す(取消権)こともできます。後見の場合、本人に判断能力が無く援助の必要性が高いために、成年後見人に広い権限が認められているのです。
 具体例をあげてもらえないかい。
 例えば、先程の例で自宅の土地建物を安く売ってしまった場合に、成年後見人がその売買契約を取り消したり、必要な介護サービスの手続きを本人に代わって成年後見人が行ったりという例があります。
 では、保佐の場合はどうなんだい?
 保佐の場合、不動産の売買や借金など特定の重要な法律行為について保佐人の同意を必要としているほか(同意権)、保佐人の同意無しに行われた行為については保佐人が取り消すこともできます。また、保佐人に、特定の法律行為の代理権が与えられることもあります。
 じゃあ、本人が勝手に多額の借金をしたとしても、保佐人は借金の契約を取り消すことができるわけか。
 最後は、補助だね。
 はい。補助の場合は、一定要件のもとで、特定の法律行為について補助人の同意を必要とすることができるほか、補助人の同意無しに行われた行為を取り消すこともできます。また、特定の法律行為については代理権を与えられることもあります。
 補助は、後見や保佐よりも、援助の程度が低いわけか。
 そうです。後見制度はあくまで本人の判断能力を補う制度ですから、必要以上に本人の法律行為に介入してはいけませんからね。
 うちの母親の場合は補助か保佐のように思うが、具体的にはどうすれば利用できるのかい。
 本人、配偶者その他一定の親族らが、家庭裁判所に申し立てをすることになります。家庭裁判所が、本人の状況を調査して、必要に応じて、後見人などを選任することになります。
 どうやって本人の状況を調査するわけ?
 本人や親族から生活状況を聴き取ったり、かかりつけの医師に診断書を書いてもらったりします。ケースによっては、本人の判断能力について医師に鑑定をしてもらうこともあります。その場合には鑑定費用がかかりますが。
 後見人などには、誰が選ばれるのかい。
 通常は、配偶者やお子さんなどご家族が選ばれることが多いですが、家族の中で誰がなるかについて争いが有る場合や本人が必要とする援助の中身によっては、弁護士や社会福祉士などの第三者が選ばれることもあります。
 なるほど。母とは別居しているんだが、どこの裁判所に申立てに行けばいいのかね。
 本人であるお母様の住所地の家庭裁判所に申立てることになっています。
 そうか。そのときはよろしく頼むね。