給費制の維持


社長 社長

法律相談じゃないんだが、少しいいかい?

弁護士 弁護士 どうされました。
社長 社長 いや、うちの子が大学の法学部の2年生なんだが、弁護士を目指したいと言い出してね。子どもに金の心配はかけたくないし、どのくらい金がかかるものか聞いてみようと思ってね。
弁護士 弁護士 大学卒業後、法科大学院に2年ないし3年間通った後、司法試験を受けてもらうことになりますね。どの大学院に通うかによりますが、1年で120〜200万円くらいの授業料が必要みたいですよ。授業の予習・復習が大変でアルバイトもしづらいようなので、プラス生活費ですかね。
社長 社長 2年間でその2倍か。結構かかるねぇ。でも、試験に合格してしまえば、後はお金の心配は無用だよね。
弁護士 弁護士 いや、そうではないんです。司法試験に合格した後も、親が生活費の面倒をみないといけない事態になっているんです。
社長 社長 えーっ!そりゃどういうことだい?
弁護士 弁護士 ご存じのように、司法試験に合格した後1年間、司法修習生として研修を積んで、その卒業試験に合格すると、晴れて弁護士になれるわけです。これまでこの司法修習生の期間は、給費制といって国から給与が支払われていました。
社長 社長 弁護士になる研修なのに、国から給与がもらえるのか。何か変な気がするが・・。
弁護士 弁護士 いえいえ。裁判官や検察官と同様に、弁護士も司法の一端を担っているんですよ。
社長 社長 それが何か?
弁護士 弁護士 もし、弁護士がしっかり研修を受けられなければ、適正な裁判ができないことになってしまいます。憲法で定められている司法制度が適正に機能しない危険さえあります。
社長 社長 それはそうだなぁ。
弁護士 弁護士 加えて、弁護士の活動範囲は、単に紛争解決や紛争予防に止まらず、公害や消費者被害、子ども、高齢者、外国人の問題など広く社会の隅々まで及んでいます。また、えん罪事件と闘ったり、資力の乏しい人の為に民事扶助の代理人や国選弁護人もしています。このように、弁護士の職務には公共性があるのです。
社長 社長 なるほどなぁ。公共性のある仕事をする人材の育成なら、国から給与が払われてもおかしくないなぁ。
弁護士 弁護士 司法修習生は、司法試験に合格したといっても法律家としてはペーパードライバーです。彼らにいきなり車を自由自在に乗りこなせといっても無理です。弁護士は人が生きていくための大事な権利・財産を扱う仕事ですから、事故が起きてしまうと、依頼した人や社会に大きな損害を与え、時には人の一生さえ左右してしまいます。だからこそ、ペーパードライバーの実地運転訓練のために司法修習制度があるのです。
社長 社長 それならなおさら充実した研修を受けて欲しいよね。
弁護士 弁護士 ところが、来年の司法修習生からは給与は払われなくなってしまうのです。
社長 社長 それじゃあ、アルバイトでもしないと生活できないよ。
弁護士 弁護士 いえ、司法修習生には職務に専念する義務がありますのでアルバイトは禁止です。
社長 社長 じゃあ、どうやって生活しろって言うんだい。収入の道を絶たれて研修だけ受けろと言われたら、生活保護でも受けるのかい?
弁護士 弁護士 国は、生活費が必要な修習生には、給与相当額を貸与すると言っています。
社長 社長 それは無茶だろう。法科大学院の授業料だけでも相当お金を遣うのに、さらに借金を背負わないと弁護士になれないってことじゃないか。
弁護士 弁護士 そうなんです。そして、そのツケは、依頼されたお客様への報酬請求に反映される可能性が高いといわれています。
社長 社長 そんなぁ。国が払うべき給与を払わなかったツケを、何故、困って弁護士に依頼する国民が実質的に負担しないといけないんだい。
弁護士 弁護士 私もそう思います。ただ、既に法律で決まったことなので、何ともならないんです。
社長 社長 それなら法律を改正すればいいじゃないか。聞いた話では医師だって国が予算を付けて養成するってことだったよ。
弁護士 弁護士 よくご存じですね。おっしゃるとおり、医師の国家試験に合格した後の2年間の臨床研修中にアルバイトしないで研修できるよう、毎年160億円くらいの予算が付けられています。司法修習生の給与に必要な予算は、年間100億円を大幅に上回ることはないと考えられているので、国民の社会生活上の医師である弁護士の研修にも同様の国家予算を付けるべきだと思います。
社長 社長 それなら頑張って法律を変えてもらおうじゃないか。
弁護士 弁護士 既に全国の弁護士会や、各地区の弁護士会連合会が「司法修習生の給費制維持を求める決議」を出しているのですが、世論の支援がないとなかなか法律の改正には至りません。
社長 社長 わかった。知り合いに声をかけて、世論を喚起してみよう。
弁護士 弁護士 よろしくお願いします。