旅行のキャンセル料


社長

旅行のことで聞きたいんだが。

弁護士 どうされました?
社長 いや、たまには家族サービスしようとパックツアーを申し込んだんだが、出発間近になってからホテルのグレードが五つ星から三つ星に変更になると言われてね。そのホテルに宿泊することも旅行の大きな目的だったんで、キャンセルしたいんだが、キャンセル料はかかるのかい。
弁護士 キャンセル料(取消料)については、旅行会社が定めた旅行約款に定められており、通常はパンフレットに記載されています。まず、パンフレットを見て、キャンセル料の支払いが必要な時期なのかどうかを確認してみてください。ただ、出発間近だとかかるでしょうねぇ。
社長 そうなんだ。時期的にはキャンセル料をとられちゃうんだよ。でも、一方的にホテルを変更しておいてキャンセル料をとるのもおかしいだろう。
弁護士 そうですね。確かにキャンセル料が必要な時期になってしまっている場合であっても、キャンセル料を支払わなくてもキャンセルできる場合がありますよ。ほとんどの旅行会社は国土交通省の定めた標準旅行業約款とほぼ同じ内容の旅行約款を使っていますので、それに従って説明します。
 標準旅行業約款(募集型企画旅行契約の部。以下同じ。)16条は、重要な契約内容が変更されたときは旅行者はキャンセル料なしでキャンセルできるとしていますので、ホテルのグレード変更が
「重要な契約内容の変更」といえるかが問題となります。なお、この規定は旅行会社に落ち度がない場合にも適用されます。
 この点、リゾートホテルで快適に過ごすことを旅行の主な目的とするツアーの場合、宿泊施設が旅行における重要な契約内容であることは明らかです。また、特に宿泊施設に着目したツアーではない場合でも、旅行者にとって、通常、目的地を観光することだけでなく、希望する宿泊施設で快適に過ごすことも旅行の大きな楽しみ・目的の一つです。従って、宿泊施設の変更は、「重要な契約内容の変更」に該当する場合が多いといえるでしょう。
 社長のケースだと、五つ星から三つ星というグレードの低下も伴う宿泊施設の変更となりますので、重要な契約内容の変更としてキャンセル料なしでキャンセルできる可能性が高いと考えます。
 なお、キャンセルしない場合でも、変更内容に応じた一定の「変更補償金」を旅行会社に支払ってもらうことができます。標準旅行業約款29条では、宿泊施設の変更の場合の変更補償金は、旅行代金の1%以上の金額とされていますが、旅行会社によって規定が異なりますので、パンフレットを確認してみて下さい。
社長 そうかい、少し安心したよ。ところで、新型インフルエンザが話題になって久しいが、旅行する先でインフルエンザが大流行している場合でもキャンセルできるのかい。
弁護士 標準旅行業約款16条では、「天変地変、戦乱、暴動、運送・宿泊機関等の旅行サービス提供の中止、官公署の命令その他の事由が生じた場合において、旅行の安全かつ円滑な実施が不可能となり、又は不可能となるおそれが極めて大きいとき。」には、キャンセル料なしでキャンセルできるとされています。
 しかし、新型インフルエンザ感染者が旅行先で発生したことが、これに該当するかどうかは、なかなか判断が難しい問題です。感染の拡大状況、感染者の症状の軽重や旅行者本人の属性(例えば、現在流行中の新型インフルエンザの場合、妊婦や慢性疾患の持病がある方は重篤化しやすいとの報告があります。)、確立した治療方法の有無、旅行先の医療体制の整備の程度、予定されている観光先の営業状況など様々な事情を総合的に考慮して、「旅行の安全かつ円滑な実施が不可能となり又は不可能となるおそれが極めて大きい」といえるか判断されることになります。
 ただ、そうはいっても、新型インフルエンザは解明されていない点も多いため、情報が正確ではなかったり、政府等の対応が適切であるとは必ずしも言い切れないところがありますので、旅行者が不安に思うのは当然のことです。事情によってはキャンセル料の免除や減額など柔軟な対応をしてくれる旅行会社もありますので、まずは旅行会社とよく相談してみることが大切です。
社長 うーん、ややこしそうだなぁ。旅行会社に相談したけど話がまとまらない場合はどうすればいいんだい。
弁護士 旅行会社との話し合いがまとまらない場合は、業界団体の(社)日本旅行業協会や(社)全国旅行業協会の相談窓口、または弁護士等の専門家に相談してみてください。
社長 わかった。困ったらまた相談に来るよ。