民事再生の申立てについて


社長

取引先から「再生手続き開始の申立をした」って連絡が来たよ。最近多いね。

弁護士 そうですね。民事再生の申立件数は、ここ数年増加傾向です。
社長 民事再生について、一般債権者として、どのようなことを注意すれば良いか教えてよ。
弁護士 はい。では、今回は、その前提として、そもそも民事再生とはどのようなものか概略を説明しますね。
会社が倒産状態に陥ったときの法的な手続きとしては、大きく清算型と再生型の二種類に分けられますが、民事再生は、再生型の代表例です。
社長 清算型と再生型とは、どう違うの?
弁護士 清算型の代表例は、破産ですが、これは、会社の経済活動を停止させ、その全財産を掌握・換金し、債権者等に分配するものです。
一方、再生型の民事再生は、会社の不健全な経済活動の原因を正し、健全な経済活動を取り戻した上で、そこから生じた収益を、関係人の多数の同意を得、かつ裁判所の認可を受けた再生計画に基づいて分配するものです。
債務者を競走馬と例えると、潰して桜肉と太鼓の皮にしてしまうのが清算型、飼い葉を食わせる(債務の減免等)必要はあるが、それ以上にレースで賞金を稼がせるのが再生型といった感じです。
一般債権者としては、清算型の場合、会社の全財産の価値を見極めることが大切ですし、再生型については、将来的に収益が上げられるよう会社の健全な再生が可能かどうか見極めることが大切です。そしてその中でも、民事再生では、再生計画の決議において、適切に議決権を行使することが最も重要です。
社長 そういえば、再生型は会社更生もあると前に聞いたね。
弁護士 そうですね。民事再生は、会社更生よりも簡易・迅速な再生が可能です。以前お話しした「民事再生と会社更生」の内容については、愛知県弁護士会のホームページ内の弁護士会ライブラリーに掲載していますよ。
社長 また見てみるよ。
弁護士 このように民事再生法は、会社の健全かつ迅速な再生を図ることを目的としていますが、そのために様々な特徴を備えています。
社長 例えばどのようなものがあるの?
弁護士 まず、民事再生法では、申立てにおいて、手形の不渡りや支払不能などの破産原因が現になくとも、そのおそれがあれば足りるとしています。特に民事再生では、申立費用のみならず、申立後も、会社は信用取引ができなくなるため、当面の資金繰りの現金を確保しておくことは必須です。この「おそれ」という要件は、会社が破産状態となり、再生が「手遅れ」になる前に申し立てることを可能とした重要な特徴です。
社長 万が一、うちの会社の経営が傾いたときは、現金があるうちに相談するよ。
弁護士 そうして下さい。
また、民事再生法では、原則として担保権の行使を禁止することはできませんが、一定の場合には担保権の実行を防ぐ手立てを講じることができます(競売手続の中止命令、担保権消滅許可制度)。
社長 工場などが差し押さえられてしまえば、そもそも事業の継続はできないものね。
弁護士 そして迅速性という観点からは、民事再生では、申立てから再生計画認可の決定がでるまで、五か月程度しかかからないというのも特徴の一つです。
さらに、再生を迅速に進めるために、再生手続の遂行主体が債務者自身とされ、再生手続開始後も債務者が引き続き業務遂行権や財産管理処分権を有することになります。民事再生が開始されても原則として経営陣が引き続き経営を行なうのはこのためです。
社長 でも経営陣に経営能力がない場合、それこそ危ないのでは?
弁護士 そこで、経営陣はそのままでも、多くの場合、裁判所は監督委員を選任します。そして、重要事項を決定するには、監督委員の同意を必要とします。
 また、経営陣が経営を継続することが不適当であれば、経営権が管財人に引き継がれる場合もありますし、監督委員の同意が必要なのに経営陣が勝手に指定された行為を行ったような場合には、再生手続が打ち切られ、裁判所が職権で破産宣告することもあります。
社長 やはり健全な再生が大切なのだね。
それで、再生は実際に成功しているのかな。
弁護士 一つの評価ではありますが、平成19年度の最高裁判所の司法統計によれば、通常再生事件814件のうち、607件が再生手続きを終結しています。
社長 思ったより成功しているみたいだね。
弁護士 そうですね。ただ、一方では、当初は協力的な銀行等の大口の債権者が土壇場で再生計画に反対したり、現金決済の資金繰りが破綻したり、申立時と事情が変わったりして、再生を断念せざるを得なくなる場合もあります。
そうすると、多くの場合、民事再生申立時にはあったはずの財産が散逸した状態で破産手続に移行することになり、債権の回収率は低くなります。
社長 競走馬の例で言うと、飼い葉を与えたのに痩せ衰えてしまい、潰しても骨と皮しか残っていない感じだね。
弁護士 そうならないよう、債権者としては、再生計画を十分吟味しなければなりませんね。他にも注意すべき点はありますので、次回、またお話をしますね。