子供が学校で事故にあったら?〜未熟さ補い安全確保〜

社長

今日は、二宮金次郎の相談なんですよ。

弁護士

二宮金次郎?
よく小学校の校庭に銅像の建っていた、あの二宮金次郎ですか?

社長

そうです。うち子が、小学校の校庭に建っている二宮金治郎の銅像の周りで遊んでいて怪我をしたんです。

弁護士 お子さんは小学4年生でしたよね。どうして怪我をしたのですか?
社長 放課後に友達と銅像にしがみついて遊んでいて、滑って落ちたらしいんです。大した怪我ではないのですが、こういう事故の場合、学校には責任はないんですかね。
弁護士 難しい問題ですね。二宮金次郎の銅像は遊び道具ではありませんから、しがみついたりして遊んではいけませんよね。小学校4年生だとそのあたりのことはよく分かっているのではないですか。
社長 確かに子供も悪いのですが、親としては学校に子供を預けているわけですから、子供の安全を守ってもらわないと、心配で学校に行かせられないじゃないですか。
弁護士 お気持ちはわかりますが、例えば、社長の会社で、社員が昼休みに機械を勝手に私用で使って怪我をしたとして、会社に責任をとってくれと言われても困りますよね。
社長 確かに。でも、学校には、会社以上に、子供たちの安全を守る義務があるのではないですか。
弁護士 その通りです。子供たちは未熟ですから、学校や教師たちには子供たちを守る重い責任があります。そのため、学校で起こった事故に関して、学校や教師の責任が問われることもあります。
社長 どんなケースがあるのですか。
弁護士 大きく分けると、
@物に起因するケース、
A子供の行為に起因するケース、
B教師その他第三者の行為に起因するケース、が考えられます。

@の物に起因するケースとしては、例えば、子供が壊れかけていたジャングルジムに乗っていたら、ジャングルジムが倒壊して怪我をしたとか、校舎の階段の手すりが壊れていて階段から落ちてしまったといった場合があげられます。学校は施設や設備の安全を維持する義務がありますから、施設や設備に管理上の問題があると責任が問われます。
社長 そうすると、二宮金次郎も学校の施設だから、学校に文句を言えませんか。
弁護士 確かに銅像も学校の施設ですが、小学校4年生の生徒が銅像にしがみついて遊ぶということは学校側も予見できない可能性が高いので、銅像としての安全性を維持していれば、特別な事情がない限り、学校の責任を問うことは難しいと思いますよ。また、ジャングルジムが倒壊したケースでも、学校側が危険なのでジャングルジムで遊んではいけないと注意をしていた場合には、子供の年齢によって、注意を守らなかった子供の落ち度が考慮されます(過失相殺)。
社長 そうですか・・・。
じゃあ、Aの子供の行為に起因するケースとしてはどんな場合がありますか。
弁護士 学校で子供同士の喧嘩により怪我をしたとか、いじめによって子供が傷ついたといった場合が挙げられます。学校側がそれまでの子供たちの様子などから喧嘩やいじめを予見できたのに十分な対策を講じていなかった場合には、安全配慮義務違反等を問われ得ます。ただ、特にいじめの場合は、教師がいじめの実態に気付きにくいという問題がありますよね。
社長 教師が生徒に体罰として暴力を振うとか、部活で子供の体力を考えずに炎天下を無理に走らせるといった場合はどうなんですか。
弁護士 それはBのケースですね。まず、体罰については、教育のためであっても暴力は許されませんので、学校側の責任が問題になります。また、部活でも、教師には子供の年齢や能力、体力、健康状態等を十分に把握して、子供に過度な負担がかかったり不慮の事故が起こることのないよう適切に指導監督することが求められていますので、その点で適切な指導監督がなされていないと、学校側の責任が問われ得ます。
先月、高校生がサッカー部の試合中に落雷により重い怪我を負ったという事件で、高松高裁は、学校側の責任を認める判決を下しました。引率教師は落雷の知識を当然持つべきであり、落雷の危険が迫っていることを予見できたにもかかわらず安全対策を採らなかった、という理由からです。教育現場としては、より一層、子供たちの安全を守るための対策を講じなければならないというわけです。
社長 なるほど。これからは、学校に色々と要求できそうですね。二宮金次郎を撤去させようか・・・。
弁護士 それについてはまた検討するとして、最近は、モンスターペアレントと言って、保護者が理不尽な要求やクレームを学校側に突きつけ教育現場が混乱するという事態が問題になっていると聞きます。いたずらにそういう事態を招かないで、良識ある対応を心がけて下さいね。それよりも、社長は会社で社員の安全を守る義務がありますが、そちらは大丈夫ですか。