内部統制

社長

 最近,新聞の経済記事やビジネス書のタイトルで「内部統制」という言葉を見かけるようになったけど,それってどういう意味?

弁護士

 「内部統制」とは「適正かつ効率的な企業活動を確保するための社内体制の構築」のことです。
よりわかりやすく言えば,「企業の不祥事を未然に防ぐための仕組み,及び不祥事が生じた場合はそれを隠すことなく改善する仕組みを,その企業内で作り上げること」が「内部統制」の意味するところとなります。

社長

 今の説明を聞いた限りでは,法律で定められている「内部統制」は大企業を想定しているね。ウチのような中小企業は,それほど「内部統制」の必要性がないようにも思えるのだけど。

弁護士  確かに,いわゆる中小企業であれば,法律的には「内部統制」の構築は義務ではありません。
  しかし,社長の会社で社会的に何か問題を起こしてしまった場合に、内部統制が構築されていれば、取締役としての責任を果たしていたとして責任追及から逃れることもできます。
  また、「内部統制」の本質的な目的は,企業の将来的な存続と発展を図ることにあり,この目的はたとえ規模が小さな企業であってもあてはまるはずです。今は,インターネットの普及により、マスコミに限らず、誰もが情報を発受信できる時代です。ひとたび企業の不祥事が発生すればその詳細は瞬時に世間に知れ渡ります。これにより,その企業の社会的信用失墜は避けられず,企業存亡の危機に直面することになることは,近時に発覚した原材料・賞味期限等の偽装を行った食品諸会社の状況を考えれば明らかです。
  逆に言えば,企業内で不祥事発生を防止すること,あるいは,たとえ不祥事が発生したとしてもそれを隠すことなく改善を図ることができなければ,企業の存続は難しいでしょう。企業が将来的に存続して発展するためには,適切な「内部統制」を社内で確立することが不可欠です。
 
社長  なぜこんな面倒な話になったのかなぁ。そもそも「内部統制」という言葉は何時から使われ始めたのだろう。

弁護士  「内部統制」という考え方の起源は古く一九二〇年代のアメリカに遡ることができると言われていますが,広く一般に「内部統制」が使われるようになったきっかけは,今世紀に入ってから多発した大規模な企業不祥事です。
  すなわち,アメリカでは,平成一三年にエンロン事件,平成一四年にワールドコム事件がおこり,それまで大規模優良企業と世間から思われていた会社が不正経理・会計に端を発して破綻に至りました。日本でも,平成一六年に西武鉄道が,平成一七年にカネボウが有価証券報告書に虚偽記載をしたことで株式上場廃止になったことは記憶に新しいところです。
  今の社会では,企業には多くのステークホルダー(株主,従業員や取引先など,企業と利害関係を持つ人々の総称です)が存在するのが通常です。ひとたび不祥事が起これば,様々なステークホルダーの様々な利益が大きく害されてしまうことは明らかです。
  そこで,これら頻発した不祥事が企業活動をチェックする仕組みの重要性を強く意識させる出来事となり,企業の自己チェック体制づくりを意味する「内部統制」という言葉が脚光を浴びるようになったのです。

社長  「内部統制」を整えるか否かは,企業が自主的に決めればいいんだよね。

弁護士   基本的にはそうなのですが,適切な「内部統制」を企業が作り上げることは公的要請でもあります。
  平成一五年には,経済産業省のリスク管理・内部統制に関する研究会が「リスク新時代の内部統制〜リスク・マネジメントと一体になって機能する内部統制の指針」と題する指針を公表し,金融庁の企業会計審議会内部統制部会が「財政報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について」と題する基準案を公表しました。
 
社長  「内部統制」に関して「日本版SOX法」という法律があるとも聞いたけど。

弁護士  正確に言えば,「日本版SOX法」という名称の法律が成立したわけではありません。平成一八年六月に,従来の証券取引法を改正する形で成立した金融商品取引法のある部分が,「日本版SOX法」と呼ばれているのです。
  金融商品取引法では,「内部統制報告制度」が規定されました。これは,有価証券報告書の提出が義務づけられる会社のなかで上場会社その他政令で定める会社においては,財務計算に関する書類等についての内部統制を経営者が評価して公認会計士または監査法人の証明を受けなければならないとする制度です。
  同時に「確認書制度」も規定されました。この制度は,上記の会社においては,有価証券報告書の記載内容が金融商品取引法令に基づき適正であることを経営者が確認した旨を記載した確認書を内閣総理大臣に提出しなければならないというものです。
  これら制度は,アメリカで既に施行されていた企業改革法(サーベンス・オクスレー法。通称SOX法)にならっています。そのため,金融商品取引法の内部報告制度と確認書制度を定めた部分が,日本版SOX法と呼ばれているのです。

社長  具体的には何をしたらいいのだろう。
弁護士  経済産業省や金融庁の上記指針・基準や会社法施行規則の規定(98条,100条,112条)が参考になるはずです。
 具体例としては,@違法・不正行為の発生防止の指針として,役員と従業員が業務遂行にあたって守るべきルールを定めた倫理規定を作って社内に周知徹底する,Aコンプライアンス推進室やCSR(コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ。企業の社会に対する責任を意味します)委員会などの名称で,リスク管理を担当する部署を社内に設置する,Bリスク管理担当部署に所属するスタッフの人事考査,異動などに経営者の不当な影響が及ばないよう,その部署を監査役直属とする,C経営者や従業員の職務執行が非効率的あるいは違法であることが見つかった場合に備えて,「企業倫理ホットライン」などの名称で電話相談窓口を設置して問題の発見と解決を図る,D弁護士,公認会計士等と顧問契約を結ぶなど,必要に応じて迅速に専門家のアドバイスを受けられる体制を整えておく,などが考えられます。

社長  自分の会社でも「内部統制」導入を考えてみるよ。

弁護士   さすがは社長,決断が早いですね。
  でも,どんなにすばらしい「内部統制」を作成しても,実際に運用されなくては意味がありませんよ。「内部統制」を効率的に機能させるには,仕組みを設計(Plan)するだけでなく,それを実践(Do)し,評価(Check)して問題点を解決・改善(Act)することを繰り返す(これをPDCAサイクルと言います)のが重要です。
  適切な「内部統制」を作り上げ,円滑に運用することで,ぜひ業績を向上させてください。