法律事務所の窓辺から

番外編


                                                         修習生 某

弁護士の仕事というとどういうものを想起されるだろうか。

民事事件であれ、刑事事件であれ、弁護士がかかわる仕事の多くは、日常には起こらないものである。マンションの入居者が賃料を日常的に滞納してはたまらないし、治安の悪化が叫ばれる現在でも警察に逮捕されるような事態は稀である。

人はそのような非日常的な困ったことが起こった場合に弁護士にお世話になる。そして、裁判所の法廷という舞台で、自分の主張を法律に従って主張してもらい、相手の主張をものの見事に崩してくれる。

このような、紛争の事後解決の専門家というイメージは、映画やテレビドラマで既におなじみのものであろう。

それはまるで、人が病気になり、医者の世話になるということと似ている。相談すれば、薬や外科手術で治してくれる。そういえば、どちらも「先生」とよばれている。

自分も、これまでは弁護士の仕事に対し同様のイメージを抱いていた。

しかしながら、法科大学院で弁護士の教えを受け、司法修習生として弁護士の色々な仕事の現場を覗かせてもらうと、どうも実態は違うことに気付く。

誤解を招くことを承知で言えば、トラブルになってから弁護士に相談に行っても、どうにもならないことは意外と多い。かかりつけの医者に解決できるくらいの病気にかかって、医者に行くのと同じ感覚で、トラブルを抱えてから弁護士の所に相談に行った場合、既に手遅れであることは思いの外多いのである。

正確に言えば、弁護士が、依頼者の話を十分に聞いて、一生懸命訴訟活動をしたところで、裁判所は、あっけないほど「どうにもならないことはどうにもならない」という判断をする。

例えば、いくら大金を誰かに貸して、返してくれないと言ったところで、借用証などの証拠が残っておらず、提出できなければ、裁判所は認めてくれない。

では、どうすれば良いかといえば、トラブルになる前に、事前に相談することである。

事前の相談も無料ではない。しかし、仮に訴訟になれば、着手金、報酬という形で弁護士にお金を支払わなければならないし、敗訴した場合には、そもそも問題になった財産を失うことになる。

そして、トラブルになってしまってどうにもならないということのうちの多くは、トラブルになる前に少し聞いておけばどうにかなるということもまた事実である。

事前規制の緩和によって、事後的な紛争の発生の増加が予想される時代においては、紛争に備えて、予め相談をすることがますます重要になってきているのではないだろうか。