授業料を返還してもらえる?

消費者契約法により返還可能に。



入学式の季節を迎え、お子さんの進学にホッと一息ついておられる読者の方々も多いと思います。ところで、とりわけ大学受験の場合、一校だけを受験するという受験生は少なく、複数の大学を受験して、合格した大学の中から第一志望の大学に進学するという学生がほとんどです。受験浪人をしたくないという受験生の心理から、滑り止め受験をするというのが昔からの定番になっているわけです。

このような大学受験の実情を反映してか、各大学の受験日程は異なっており、全ての大学の合格発表を待たずに入学手続の期限を迎える大学があるため、受験浪人を避けるには、とりあえず、先に期限を迎える大学に入学金や授業料などを納入して入学手続を経ておかなければなりません。多くの受験生が、受験浪人を避けたいとの一心から、進学するかどうか決まっていない大学に、多額の入学金等を納入するわけです。

ところが、従来、一旦納入した入学金や授業料については、ほとんどの大学で返還しない扱いとされてきました。そのため、受験生は、入学を辞退することになった大学に支払った入学金や授業料について、泣く泣く返還を諦めていたというのが実態でした。

しかし、結果的に入学しなかった大学に、どうして多額の入学金や授業料を払わなくてはいけないのか、という疑問をお持ちのかたも多かったはずです。

この疑問に対し、昨年、最高裁判所は、以下の通り、大学の入学金の返還は認めませんでしたが、授業料や施設費などについては大学に返還を命じる判決を出しました。



◎入学金について
「不相当に高額であるなどの特段の事情がない限り、大学は入学辞退者に対し入学金の返還義務を負わない。」

入学金については、学生が大学に入学しうる地位を取得するための対価としての性格を有するものと考えられるため、一旦入学金を納付して入学しうる地位を取得した以上、返還する必要はないと判断されました。


◎授業料について
「3月31日までに入学を辞退した場合には、原則として大学は授業料の返還義務を負う。但し、専願や推薦入学試験等の場合は、特段の事情のない限り、返還義務を負わない。」

大学は、入学辞退(在学契約の解除)に伴う損害賠償額の予定または違約金の定め(以下、併せて違約金条項といいます)として、授業料を返還しない旨の特約(以下、特約といいます)を定めています。裁判では、この特約が消費者契約法九条により無効ではないかが争われました。

 

消費者契約法九条一号は、消費者契約(消費者と事業者との間で締結される契約)の解除に伴う違約金条項は、「当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害」を越える部分を無効と定めています。そこで、入学辞退により大学に平均的な損害として授業料に相当する額の損害が生じていなければ特約は無効になるわけです。

 この点、裁判所は、3月31日までの入学辞退者については、大学も織り込み済みであって、大学には平均的な損害は生じていないとして、授業料を返還しないとする特約は無効であると判断し、授業料の返還を認めました。

但し、3月31日までの入学辞退者であっても、専願や推薦入学のように合格したら入学することを前提とする試験の合格者の場合には、入学辞退が一般的には予測しえないことから、大学には授業料に相当する平均的な損害が生じるとして、授業料の返還を認めていません。

他方、4月1日以降の入学辞退者の場合、大学は当該学生が入学辞退するとは予測していないことから、大学には授業料に相当する損害が生じているとして、授業料の返還を認めませんでした。

 なお、授業料とともに施設設備費、諸会費などの費用が徴収されることがありますが、これらも基本的に授業料と同様に考えられます。


この判決を契機に、文科省は、全国の国公私立の大学や短大、高等専門学校、各種学校に対し、3月31日までの入学辞退者(専願や推薦入学合格者等を除く)には授業料や施設設備費、諸会費などの返還に応じることを明確にするよう通知しました。従って、こうした学校においては、今後、授業料等の扱いが大きく変ることと思われます。

消費者契約法は、今回最近、英会話学校を中途解約する学生に対し契約時の単価を超える額の精算金を求めることは特定商取引法に反して違法であるとの最高裁判決が出ました。大学の事例とは異なりますが、消費者の立場を保護する判例として注目されます。