新設された年金分割制度

         厚生年金と共済に限定
            最大で夫婦合計の半分

社長

最近、離婚の年金分割って耳にするけど、どういう制度なの。

弁護士

社長、いよいよ離婚するんですか。

社長

いやいや、違うよ。けど、年金制度はきちんと理解しておかんとな。

弁護士

なんだか怪しいなぁ。
これまでの年金制度では、夫が勤めに出て、妻が専業主婦という夫婦が離婚した場合、厚生年金部分について夫のみが年金を受けることになっていました。しかし、これでは、妻は十分な所得水準を確保できない、ということで、今回新たに年金分割の制度が定められたんですね。

社長

ううむ。確かに、これまでは夫が年金を取りすぎだったね。で、その制度はいつから適用されるのかな。

弁護士

年金分割制度は平成一九年四月一日以降に離婚する夫婦が対象となります。

社長

じゃあ、私が四月一日以降に離婚した場合、年金の半分を妻に持っていかれてしまうことになるのかな。

弁護士

必ずしもそうではありません。実際に分割の対象となるのは「結婚中の加入期間に基づく夫婦双方の厚生年金」です。したがって、夫がサラリーマン、妻が専業主婦という家庭の場合でも、夫が働いた期間と婚姻していた期間が一致しないことが多いので、必ずしも半分にはなりません。さらに、共働きの場合は、夫の年金だけでなく、妻の年金も合わせたものを分割するのですね。

社長

なるほど、夫の年金だけが分割されて、妻の年金が分割されないということでは、逆に不公平だよね。

弁護士

そうですよね。また、あくまで対象とされるのは厚生年金なのです。基礎年金は、双方に支給されますので、分割の対象となりませんよ。

社長

それじゃあ、国民年金にしか加入していないような場合は、分割されないということなんだね。

弁護士

そうです。厚生年金や共済に限っての分割制度だということに注意すべきですね。

社長

そうなんだ。じゃあ分割するにはどうやったらいいのかな。

弁護士

まずは「合意分割」の方法があります。夫婦で分割割合を話し合い、合意に至った割合に基づき、社会保険事務所に厚生年金分割の請求をするというものです。ただ、合意分割は、公正証書等でする必要がありますよ。単に二人だけで適当な書面を交わしただけでは認められませんので注意が必要して下さい。

社長

なるほど。では、割合は、夫婦で自由に決めていいのかな。

弁護士

いいえ。最低でも分割を受ける側の分割前の持ち分以下とすることはできません。簡単な計算例で説明すると、分割前の持分が夫七万円、妻三万円とすれば、最低は妻の分割前の持分である三万円となります。そして、最大は、夫婦双方合計の半分となります。今の例でいえば、分割前の妻が受ける最大は、夫婦の合計一〇万円の半分で五万円となります。

社長

半分以上取られてしまうということはないんだね。

弁護士

そうです。「夫の年金の半分をもらえる」と誤解されている方が多いのですが、最大半分もらえるというものなのです。

社長

今、持分と聞いたが、具体的な金額はどうすれば分かるんだい。

弁護士

社会保険事務所に問い合わせれば教えてもらえます。

社長

では、話し合いがつかない場合はどうなるのかな。

弁護士

その場合には、家庭裁判所に分割割合を決めてもらうことができます。この場合には、家庭裁判所が決めた割合に基づいて分割することになります。

社長

なるほど。夫婦で合意できない場合には、家庭裁判所に決めてもらい、それに従うということなのですな。

弁護士

当面の間は、そうです。ただ、いわゆる専業主婦などの3号被保険者については、平成二〇年四月一日以降は「3号分割」ができます。

社長

3号分割?何、それは。初めて聞く言葉だな。

弁護士

3号被保険者、つまり、専業主婦や収入の少ないパート職の主婦など自らは厚生年金に加入せず夫の厚生年金の被保険者であった人が、3号被保険者であった期間について、社会保険事務所に対し請求することが出来る制度です。その期間の2号被保険者、たとえば厚生年金に加入していた夫の標準報酬総額の半分を自分の報酬とし、それをもとに年金を受け取ることができる制度です。

社長

う〜ん、難しい。

弁護士

要するに、専業主婦等は、分割に関する合意や裁判所の決定がなくても、社会保険事務所に請求するだけで、当然に分割することができるということなのです。

社長

なるほど。では共働きの場合は、妻は3号被保険者ではないから、当然に分割されないということですな。

弁護士

そうです。また、3号分割の請求ができるのは、平成二〇年四月一日以降の離婚に限られ、かつ、その日以降の3号被保険者期間のみが分割の対象となるのです。

社長

なるほど、よくわかったよ。

弁護士

これで社長の離婚の場合も安心ですね。

社長

だから、わしのことじゃないってば。