悪しき慣習・サービス残業

〜賃金不払には厳しい措置も〜


「サービス残業」という言葉をよく耳にしますが、その内容については十分に理解されていないようです。「サービス」という用語からわかるように、簡単に言うと労働者が賃金を支払われることなく残業を行うことをサービス残業と言いますが、実はいろいろな法的問題点を含んでいます。そこで、今回は、サービス残業に関する法律上の問題点について考えてみたいと思います。

一、労働時間についての原則

まず、サービス残業を理解する前提として、労働時間についての法律の定めをみてみましょう。労働基準法は、労働時間について別表のように規定しています。

もちろん、労働基準法は最低限の労働条件を定めるものですから、労働基準法の定める基準を満たしている限りこの基準と異なる内容の契約を個別にすることも可能ですが、この基準を下回る内容の労働契約は無効とされ、労働基準法の定める基準が適用されます。

二、残業と休日労働

労働基準法の定める時間を超える労働(法外残業)や法定休日における労働(休日労働)が許されるのは、フレックスタイム制などの特殊な場合を除き、災害等による臨時の必要性がある場合のほか、労働契約で残業・休日労働が定められ、書面による労使協定(いわゆる三六(さぶろく)協定)が締結され労働基準監督署長に届け出がなされている場合です。

こうした法外残業や休日労働に対しては、特別な割増賃金を支払わなければなりません。具体的には、法外残業に対しては二十五パーセント以上の、休日労働に対しては三十五パーセント以上の割増賃金を支払う義務があります。また、雇用契約で定めた労働時間(例えば6時間)を超えるものの法定労働時間を超えない労働(例えば7時間)(法内残業)については、個別の契約がない限り法定の割増賃金を支払う必要はありませんが、残業時間に応じた賃金は支払わなければなりません。

三、問題点

このように法律上は、残業が許される要件があり、また、残業に対して割増賃金を加えた賃金を支払わなければならないことになっていますが、実際にはサービス残業が悪しき慣習として見過ごされてきました。

しかし、サービス残業は労働基準法に違反する違法な行為です。明示であれ黙示であれ使用者がサービス残業をさせ賃金や割増賃金を支払わないことは、労働基準法違反の違法な賃金不払いにあたり、懲役または罰金が科せられることがあります。また、労使協定が締結されていないにもかかわらず残業をさせる場合も違法な時間外労働になり、懲役または罰金が科せられることがあります。

さらに、サービス残業により労働者が過労死等の健康被害を被った場合には、使用者は民事上の損害賠償責任を追及されるおそれも出てきます。

四、サービス残業の実態

サービス残業は実に様々な形で行われています。

代表的な例としては、タイムカードなどにより定時での退社扱いをさせた後に残業させ、労働者に残業の申請を行わせないというパターンです。使用者がこうした扱いを明示的に指示する場合もありますが、多くは、態度や社内の雰囲気、慣習などにより暗黙の内にサービス残業をさせている場合が多いでしょう。あるいは、敢えて一定時間以上の残業をしてはならないという会社の規定を作り、他方で残業しなければこなしきれない量の仕事をさせ、結果的に労働者が規則に違反して勝手に残業しているという外形を作り出してしまうというパターンもあります。

さらに、管理職は労働基準法に定める労働時間等の規定の適用を受けないことから、労働者を名目上の管理職に昇進させ、少額の管理職手当を支給する代わりに賃金を支払わないというパターンや、会社での残業は行わせないが、仕事を自宅に持ち帰って行わせるというパターン(俗に言う風呂敷残業)などもあります。

形式はどうあれ、実態がサービス残業と異ならない場合には、違法な行為と判断されます。

五、改善に向けて

これまでサービス残業に対しては文句を言えない風潮がありましたが、最近では、厚生労働省が通達を出して是正を指導しているほか、労働基準監督署が立入調査により是正勧告を行うようになっています。

サービス残業の問題を本当に解決するためには、仕事に無駄がないか、ITによる効率化が図れないかなど、仕事のあり方そのものを見直すことも必要でしょう。

皆さんの職場でもサービス残業が行われていないか、改善するためにはどうしたらよいか、あらためて検討されてはいかがでしょうか。