非常勤裁判官制度とは

非常勤裁判官というのは、弁護士がその身分を有したまま非常勤の形態で、週一回、地裁または簡裁の民事調停官、家裁の家事調停官として、裁判官と同等の立場で調停手続を主宰する制度です。
 この制度の主な目的は、弁護士の体験を活用した民事・家事調停制度の充実、弁護士任官(弁護士から常勤裁判官に転身すること)の促進という点にあります。
 平成一六年一月からこの制度がスタートし、一六年一月に名古屋簡裁に民事調停官三名が採用され、その後、一七年一〇月に二名、一八年一〇月に四名採用されました。また、名古屋家裁では、一七年一〇月に三名、一八年一〇月に四名が家事調停官に採用されました。
 任期はいずれも二年で、再任もできます。
 今回は、民事調停官の一人に話を聞いたので、日頃の民事調停官の仕事ぶりなどを読者の皆さんにお伝えします。


調停官になった動機は?
私は、市民に一番身近で利用しやすい簡易裁判所の調停制度がうまく機能していないと感じていました。一番の問題点は、調停を主宰している裁判官が、事件をほとんど調停員に任せて、事件解決のイニシアティヴをとっていなかったことです。その為、調停はその事件を担当した調停委員の力量次第ということになります。また、法的問題点からの検討は曖昧なことが多かったのです。
 ただ、工夫と運用次第で、簡裁の調停は紛争解決に非常に有用な制度だと思っていました。
 というのも、簡易裁判所の調停委員は、医師、税理士、建築士、不動産鑑定士、社会保険労務士などの資格を持った方や、企業などで要職についておられて定年内退職された方など、人生経験豊富で多士済済の人材が豊富です。この社会経験を調停にうまく活用できれば、調停制度が充実し、適切で妥当な解決が迅速にできる素地は十分あると思っていました。
 ただ、要となる裁判官が指導力を発揮できる制度でなかった。これは裁判官の資質の問題ではなく、裁判官の数が少ないため、調停にまで手が回らなかったのが実状です。
 裁判官が法的問題点を正しく指摘し、重要な部分はどこかについて調停委員に適切なアドバイスをすれば、調停は充実すると思っていたのです。
 そこで、何とかこの点を内部から改革できないかと思い応募しました。


一六年一月に任官し、その後、再任され、現在、調停官として三年目と聞いています。この三年間で簡裁の調停はどんなことが改善されましたか。

我々調停官の場合は、事件担当制になり、一貫してその事件を同一の調停官が担当することになりました。
 調停官は、担当する事件記録をあらかじめ読み、問題点を把握します。そして、調停委員と裁判所書記官とが事前にこの事件の事実関係で明らかにすべきこと、法律上の問題点、留意点等を評議し、共通の認識を持つように努めます。このようにして調停期日に臨み、申立人・相手方から、事情を聞きます。そして、その調停期日の際のやりとりについて調停委員から報告を受け、次回調停期日の課題を議論します。
 また事件によっては、現地調停といって、現地に我々が出向き、現場の状況を実際見て、事案の把握に努めています。


調停の成立率や調停成立までの期間などは?
前述のような地道な努力が功を奏してか、名古屋簡裁の調停成立率は約五〇%まで向上しました。また、大部分の事件は申し立てから解決まで約六ヶ月です。


調停官になって苦労したことは?

裁判所の書記官、調停委員と良好な人間関係を築くことに気を遣っています。記録をよく読み、事件の見通しをしっかり立て、解決が困難と思われた事案を調停成立させるという実績を積み重ねて、信頼関係を築き上げていきました。また、本業の弁護士業務との時間調整も大変ですね。



弁護士から常勤の裁判官になる制度があると聞いていますが、弁護士任官が推進される理由は何なのでしょうか?
裁判は紛争の解決を目的とするものですから、裁判官自身にある程度社会経験がないと紛争当事者の気持ちが理解できず、公正妥当な紛争解決ができない恐れがあります。弁護士経験を一定期間積んだ人が裁判官になれば、市民感覚にマッチした裁判が行われるのでないかと期待されています。


そうすると、多くの人が常勤裁判官になることが望ましいですね。
そこが悩ましいところです。弁護士として一〇年近く活動してきて、顧問会社や依頼者も増えてきたのに、弁護士を廃業して裁判官になることは大変勇気が必要です。


あなた自身はどうする予定ですか。
私自身は、弁護士が天職だと思っています。ただ、日本の司法制度全体を考えると、弁護士経験のある人が裁判官になるという制度がこれからの進むべき方向だと思います。そういう意味で、残りの任期の一年間、重大な決断を迫られる日々が続く訳です。


最後に一言。
現在の名古屋簡裁の調停事件は、紛争解決制度としての機能が高まっています。民事の紛争でお困りの方は、簡裁の調停をどんどん利用して下さい。