金融庁の苦しい立場

〜ライブドア捜査から考える〜

 ライブドアの堀江前社長が証券取引法違反で逮捕された。証券取引が適正になされるか否かについては金融庁が監督する立場にある。その金融庁が動かず、何故、東京地検特捜部が動いたのか。
 法律家の目から見て、今回の捜査のポイントはこの点にある。

  これは一つには、検察庁が時の政治の思惑に影響されることなく、独自の判断で捜査できる権限を有しているからだといえる。東京地検特捜部は、過去に、いわゆるロッキード事件で、時の権力者であった田中角栄元総理の刑事責任を追及し、その存在意義を示した。

  検察庁は法務省に所属する。上命下服の行政機構の世界にありながら、検察庁は犯罪捜査に関して高度の独立性が認められている。法務大臣といえども、個々の事件について指示・命令をすることはできず、捜査に関しては検事総長のみを指揮することができる、とされている(検察庁法一四条)。また、検察庁内部の人事について、法務大臣の関与がほとんどないのが実状である。

  他方、金融庁には証券取引等監視委員会がある。この委員会は粉飾決算、風説の流布などの違法な株式取引について、捜査、摘発する機関である。しかし、検察庁のような捜査の独立性が認められておらず、委員の人事も金融庁が掌握している。

 これだけの前提知識をもとに、今回のライブドア問題を見てみる。
小泉首相、竹中総務大臣ラインは、規制緩和を進めて自由競争を促進し、経済を活性化させようという政策を遂行している。   

 堀江氏率いるライブドアは、この流れに沿う行動をし、結果として規制緩和路線の広告塔の役割を果たしていた。堀江氏は、近鉄球団を買収しようとか、フジテレビの子会社の株を買い占めフジテレビと丁々発止のやりとりをし、何百億というお金を自由に調達できると豪語していた。この堀江氏の行動は、既存の秩序に風穴を開けようとする挑戦者として世間の注目を集めた。

  ところが、丁度この頃、ライブドアは粉飾決算をしていたとされる。

  この頃のライブドアの財務内容の真偽は、株式市場に大きな影響を与える重要事項であった。この時点で、金融庁の証取監視委がライブドアの経営実態について調査に乗り出してもおかしくない状況であった。

  しかし、もし、あの時点で証取監視委が調査し、ライブドアの粉飾決算が明るみにでていたら、時の政府が押し進めている規制緩和、自由競争促進の政策遂行に水を差すことになる。

  金融庁の下部組織である証取監視委は、その組織自体があまりにも政治に近すぎる。そのため、市場の番人としての独自の判断、行動ができないという限界があったと言わざるを得ない。

  今回、東京地検特捜部は、堀江氏検挙に動き、ライブドアの動きを封じた。法令を遵守するフェアな経済活動が自由競争の大前提であり、これに違反する者は市場から退場させられる、という当然のことを示した。

  そういう意味で、今回の東京地検特捜部の行動は高く評価できる。それに比較して、証取監視委の存在意義が厳しく問われる。