減税措置で責任回避?

構造計算書偽造問題(その2)
 先月に続いて,構造計算書偽造問題である。

 被害者である住民のために,国税局が今回の事件を「災害」と認定し,減税措置をとるとのことである。
確かに,真実を知らされないままに脆弱なマンションの購入を決め,ローン契約を締結された住民の方々はお気の毒である。国税局の英断に対しても敬意を表したい。

 しかし,今回の事件だけが減税措置の対象となるのは如何なる理由によるのであろうか。

 法的に考えると,今回の不法建築マンションの販売は,住宅販売会社と住民との間の不動産売買契約である。販売会社が構造計算書の偽造を知っていれば詐欺を理由として契約取消が可能であるし,知らなかったとしても修復不能な瑕疵のある物件を売買したことになり契約解除が可能である。取消も解除も契約が当初から存在 しなかったことになるので,販売会社に対して支払った代金を返せという請求ができる。

  また,構造計算書の偽造を知っていた,または知りうるはずであったのに過失により知らなかった建築会社に対しても,不法行為による損害賠償が請求できる可能性が高い。

  ただ,販売会社も建築会社も,自己破産申立をする,または匂わせるなど,現実の被害回復が図られる可能性は低いと思われる。そして,脆弱なマンションを購入した被害者が多数いるために,社会的な影響が大きいから減税措置をとるようである。

  それでは,一戸建ての建売住宅を購入し,その住宅が欠陥住宅であった人に対して減税措置はないのであろうか。同じように販売会社や建築会社が十分な資金を有しない場合であっても,そのような人に対しては,減税措置は認められていない。代金の返還を求めたり,損害賠償請求をしなさいと言われるだけである。
 同じ欠陥住宅であっても,被害者が多ければ減税措置をとり,被害者は多数いるが個別の被害であるが故にその実態が把握しづらいケースでは優遇措置はとられない。この対応の違いに合理的な理由があるとは考えにくい。

  今回の国による対応の早さ,保護の手厚さを見ていると,先回指摘した建築確認検査を民間業者に認めた責任や,行政が行った杜撰な建築確認検査の責任を回避するために,問題を少しでも早く収拾させたいとの意向が見え隠れする。と感じるのは私だけであろうか。