偽造構造計算書問題に思う

 千葉県市川市の建築士の違法な構造計算による脆弱な設計が問題となっている。耐震性に問題ありとして営業停止したホテルもある。また,分譲マンションを買った住民からマンション業者に対し買い戻し要求もなされてもいる。退去命令の出された建物もある。

  影響は,当該建築士の責任問題に止まらず,建築業者や建築確認業者,果ては行政の責任を問うところまで飛び火する勢いである。

  ところで,この建築確認を民間業者が行えるようになったのは,平成一二年に改正建築基準法が施行された際,従来行政が行っていた建築確認の作業を民間にも門戸を広げたことによる。これは,行政だけでは多数の申請に対応しきれず,建築確認申請から確認がおりるまでに時間がかかりすぎたことも理由の一つである。

  この手数料は業者によって異なるが,一戸建てで床面積が一〇〇〜二〇〇uの場合,建築確認だけだと,概ね一万二〇〇〇円〜二万円程度である。民間業者が事業として行う以上,多数の確認申請を受け付けないと事業として成り立たない。また,右のような理由から民間業者が建築確認を行うようになったのであるから,できる限り迅速に建築確認を行う必要がある。結果的に,一級建築士など然るべき資格を有する人が作成した図面,構造計算書などは相当程度間違いがないものと評価して確認作業を行わざるを得ないようである。そのため,建築士の資格を悪用する者が登場すると,建築確認業者としてはお手上げとなってしまう。
このような制度自体に問題があるのではないだろうか。行政が建築確認審査を行いながら見逃してしまったケースもあるが,経済効率を考えると,右のように民間業者では手抜きの生じる危険が常につきまとう。まして,お金を払ってくれる人が提出した書類を検査するのである。あの業者は検査が厳しいと業界内で噂が立てば,当該業者へ建築確認を依頼する人が減ってしまうのは人間の心理である。そうなっては倒産の危険が生じるから,不可避的に甘い検査になってしまうのではないだろうか。

  もちろん,検査機関としての矜持を保って法令に従った厳格な検査を行っている業者も多数いるであろう。ただ,バブル期以降の拝金傾向を苦々しく思う身としては,規制緩和の流れの中で,国家が堅持すべき責務まで放棄しているような気がしてならない。
また,建築士に限らず,公認会計士,司法書士など「士」業を名乗る者は,国家試験に合格してその資格を得ている。プロとして相応の報酬を請求する権利が認められる代わりに,資格を有する者として恥ずかしくない仕事をする責任が課されている。お金のためにその責任を放棄してよいはずがない。「ボロは着てても心は錦ィ」で始まる水前寺清子さんの歌があった記憶だが,そのくらいの覚悟で業務に取り組むべきではないだろうか。

と,強気の意見を書いていたら,国会議員でもある弁護士が弁護士法違反で逮捕されたとのニュースが流れてきた。嗚呼。