高齢者・障害者の権利擁護問題

      福祉制度改革で不利益も
         各分野の専門家集めネットワークで対策


1、新しい弁護士業務
 弁護士の仕事というと、普通にイメージされるのは、貸金や売掛金の回収、交通事故等による損害賠償請求の裁判、破産や民事再生などの債務整理、相続や離婚などの家事事件、刑事被告人の弁護などではないでしょうか。
 しかし、弁護士の仕事はそれらだけでなく、他にも多岐に亘っています。その中の一つで、最近、その重要性を増しつつあるのが、高齢者や知的・精神・身体障害者の権利擁護の仕事です。

2、福祉制度の大改革
 読者の皆さんもご存知のとおり、平成12年4月から介護保険制度が始まりました。これは、原則として65歳以上の高齢者で加齢や病気によって身体状況が悪化した方が介護サービスを利用するためには、まず、市町村から要介護の認定を受けた後、自分で介護サービス事業者との間で利用契約を締結しなければならないという制度です。平成12年4月以前は、全て行政側が行政措置(行政処分)として高齢者のために必要な福祉サービスを選択して与えてくれていたのが、介護保険制度では、高齢者自身による契約形態に変わったのです。
 同様の制度改革は、知的・身体障害者が福祉サービスを利用する場面でも始まっています。平成15年4月から開始された支援費制度がそれです。知的・身体障害者は福祉サービス事業者と自ら契約してサービスの提供を受けることになりました。
 これらは、国(厚生労働省)の社会福祉制度に関する大改革の流れの中で起きていることです。高齢者・障害者が介護・福祉サービスを利用するためには自己決定と自己責任の原則の下で、サービスを提供する事業者と契約し、また、その事業者には多くの民間業者の参入を認めるようになりました。
 このことは、一方で高齢者・障害者の自由な選択と事業者間の競争によるサービスの質の向上というプラス面をもたらしますが、他方で、福祉の世界に自由競争、弱肉強食の原理が入り込んでくることをも意味します。高齢者や知的障害者は判断能力が不十分なことが多いわけですから、自分にとって不利な契約を締結させられてしまったり、そもそも自分一人では契約すること自体が困難な場合も考えられます。
 同様のことは介護・福祉サービスを利用する場面だけでなく、高齢者等をターゲットにする訪問販売、通信販売業者との取引によっても起こります。実際、最近、悪質な訪問販売等の業者による被害は増加しています。 これらは、いずれも高齢者や障害者の財産や身体・生命などの重大な権利が侵害されるケースですから、弁護士としても積極的に関与すべき社会的責任があります。
 介護保険制度が始まった平成12年4月には、判断能力の不十分な高齢者・障害者を保護するための制度として成年後見制度(従前の禁治産・準禁治産制度を改正したもの)が発足し、弁護士がこの成年後見人に就任するケースも増えてきています。また先程の訪問販売等による被害の救済にも弁護士は積極的に関与しています。

3、弁護士会の活動
 現在、このような高齢者・障害者の権利擁護を目的とした諸活動を専門的に行う組織である「高齢者・障害者総合支援センター」(通称、「アイズ」)が名古屋弁護士会の中に作られています。同様の高齢者・障害者支援センターはほぼ全国の都道府県にある弁護士会にも創設されています。そして、日本弁護士連合会が、それらをいわば統括する立場にあります。 この日本弁護士連合会と中部弁護士会連合会、名古屋弁護士会が主催するシンポジウム「第3回高齢者・障害者権利擁護の集い」が、来る1月28日(金)名古屋市内で開かれます。
 先程、弁護士が高齢者や障害者の問題に取り組んでいると言いましたが、もともとこの分野は弁護士の得意分野ではありませんでした。というのは、この分野は、これまで、どうしても行政・医療・福祉・介護・保健が中心的位置を占め、法律問題はあまり表面化しなかったため、弁護士が関わる必要性が少ないと思われていたからです。しかし、介護・福祉サービスの利用が契約制度に変わった現在では、高齢者・障害者の権利侵害の危険が高まったため弁護士が関わるべき度合いが増してきました。ただ、弁護士だけでこの問題に立ち向かうのは困難ですから、行政や医療、福祉等の分野の専門家との協力体制が是非とも必要です。そのためには各分野とのネットワーク作りが必要です。「第3回高齢者・障害者権利擁護の集い」はこのネットワーク作りをテーマとして開催されるものです。
 人は必ず高齢者になります。また、事故や病気によっていつでも障害者になりえます。それから先も人は自分の力で生き続けなければなりません。将来の社会の不安要素は年金問題だけではありません。高齢者・障害者の問題は読者の皆さんにも大いに関わる問題です。この機会に今まで以上に関心を持っていただければと思います。
 なお、名古屋弁護士会「アイズ」では、高齢者・障害者の方やその親族、知人の方のために、次のとおり名古屋の名駅3丁目にある大東海ビル9階で有料法律相談を行っています。相談内容は、成年後見制度や介護保険制度の利用援助、財産管理の委託、遺言作成、虐待、一人暮らし老人を狙った訪問販売による被害救済などです。電話で予約の上お越し下さい。

《相談日時》 毎週火曜日と木曜日の午前9時45分〜正午
《相談料》 30分 5,250円
《予約電話》 052−565−6110

 なお、電話での簡易な無料相談(10分程度)にも応じます(052−565−6116)。
 相談を経て実際に弁護士が事件を受任する事になった場合、事件の種類・難易度にもよりますが、原則として2名の弁護士が「アイズ」の監督を受けながら担当します。いずれの弁護士も高齢者・障害者問題について一定の研修を受けていますのでご安心下さい。