非常勤裁判官日記 1 
     「新設された非常勤裁判官制度」


 平成15年7月の通常国会で、非常勤裁判官制度を創設する民事調停法、家事調停法などの改正案が成立し、平成16年1月からこの制度がスタートしました。
 非常勤裁判官というのは、弁護士がその身分を有したまま、非常勤の形態で、週1回、地裁あるいは簡裁の民事調停官、家裁の家事調停官として、裁判官と同等の立場で調停手続きを主宰する制度です。
 全国では30名の弁護士がこの非常勤裁判官に採用されました。名古屋では名古屋簡裁に民事調停官3名が採用され、それぞれ、毎週、火曜日、木曜日、金曜日が執務日で、非常勤裁判官として簡易裁判所の民事調停事件を担当しています。
この制度の目的
 この制度の主な目的は、(1)弁護士の体験を活用して民事・家事調停制度の充実をはかる、(2)弁護士から常勤裁判官になる人を増加させる、の2点にあります。
(1) 民事調停の充実 
 簡易裁判所の民事調停は、裁判官と調停委員(民間から委嘱をうけた人達:弁護士、税理士、会社経営者、不動産鑑定士、建築士、医師、元裁判所職員、元検察庁職員、元警察官、主婦など)とで調停委員会を構成し、各事件を担当していきます。実際は、裁判官が調停に同席するのは希で、調停委員が申立人、相手方から事情を聞き、解決案を模索していき、随時、裁判官に報告する方式がとられていました。
 民事調停事件は、土地・建物の明け渡し、お金の貸し借り、交通事故による損害賠償、隣との紛争(騒音、境界、日照被害)、建築紛争、医療過誤など多種多様です。これらの紛争を調停の場で話し合いで解決するが故に、調停制度は国民に一番身近で利用しやすい紛争解決手段なのです。ところが、調停事件数が多く、その割には裁判官が少ないために、調停に裁判官が十分関与出来ず、調停委員に全てお任せという事件も少なくありません。調停委員の方は自己の職業経験、社会経験を活用して、事実認定なり、解決案提案なり尽力されています。しかし、おのずと限界があります。 このようなことから、弁護士が非常勤の裁判官となって調停を主宰し、個々の事件の調停の場にも同席し、当事者双方から事情を聞くことにする。そして、事実認定の上でも弁護士の経験を生かし、法的な判断を求められる事柄も弁護士としての経験、知識を活用して、調停をより一層充実させようということになったのです。
(2) 弁護士から常勤裁判官になる人を増やす
 日本では、裁判官になる通常のコースは次の通りです。司法試験に合格し、司法修習を経て、裁判所に裁判官として採用される。このようなコースで裁判官になる人の多くは、大学を卒業して、司法試験の勉強をして合格するという人が多いため、裁判官になるまでの間、他職経験なり、社会経験がほとんどなく、裁判官になってからも官舎と裁判所との往復の日々で、スリリングな社会経験はほとんどありません。
 考えてみれば、裁判は紛争を解決する一つの方策です。紛争とは、人と人との欲望のぶつかり合い、利害の衝突です。その紛争の解決に関与する人が社会経験が少ないというのはいかにも奇妙です。そこで、弁護士として一定期間活動してきた人が裁判官になるという制度を設けることになったのです。
 ただ、現実問題として、裁判所側からすると、弁護士なら誰でも裁判官になれるというものではありませんし、また弁護士側からすると、今まで苦労して形成してきた人脈、経済基盤を捨てて、裁判所という新たな世界に飛び込むにはかなり勇気がいります。
 そこで、2年間非常勤裁判官として裁判所の生活を一定程度経験し、この2年間で、常勤裁判官になるかどうか考えるということから、この非常勤裁判官制度が新設されたのです。

※今後、随時、非常勤裁判官の執務状況について日記形式で皆さんにお伝えいたします。